007シリーズ11作目の作品が、『007ムーンレイカー』(1979年イギリス制作)である。この作品は、2代目ジェームズ・ボンド役であるロジャー・ムーア主演第4作目。当時「スターウォーズ」(1977年アメリカ制作)という宇宙時代を強烈にアピールした映画が流行ったことで、007シリーズも、宇宙時代の要素をふんだんに取り入れる必要があり、アメリカでのスペースシャトル打ち上げ計画の2年前にもかかわらず、打ち上げを彷彿とする映像を展開したこともあって、007シリーズ最大の興業成績を討ちたてた。これは、初回作品から6作品までの合計よりも多額の制作費をかけた事にもよるのであるが、中々、強烈な映像を作り上げている。
まず驚いたのは、『私を愛したスパイ』で登場した殺し屋ジョーズが再び登場していること。冒頭のパラシュート空中勝負から、ロープウェイでの格闘やボートでの水上チェイスなど、前作よりも出番が多い。しかしなぜなのか、彼は何度も死にそうな目にあっているにもかかわらず、無傷で不死身、何で死なないのかと不思議になる。確かに「歯」は鋼鉄をも噛み砕くのであろうが、体も鋼鉄の体ではないはずなのだが・・。ロープウェイのシーンで、007との格闘を終えたジョーズが終点の駅に激突するも、やはり不死身であり、瓦礫から助けられたドリーと言う少女との出会い、そこから「不思議の国のアリス」のようなメルヘンチックな展開になってしまう。手をつなぎながら去っていくシーンは、いったいどうして・・・と言った感じで、007シリーズで最も謎を残すシーンである。
制作当時『スター・ウォーズ』などの宇宙ものの映画が話題を呼び、それにあやかってか、とうとうボンド映画までSFタッチになり、宇宙基地でレーザーガンによる大銃撃戦が展開する場面などからすると、「これほんとにスパイ映画の007シリーズなの?」と思ってしまうのだが、しかし、宇宙ステーションでの攻防戦は、なかなか迫力があり、またNASAの協力で製作途中の本物のスペースシャトルが見れたりもして映像的には十分満足させられる。あの高価なスペースシャトル型の「ムーンレイカー」が5台も打ち上げられる。しかも、そのシーンは、本物のスペースシャトルが巨大なロケットに設置されてのシーンと、全く同一。本物の打ち上げを疑似体験したようなものなのだ。
ハイジャックされた有人宇宙連絡船“ムーンレイカー"をめぐって、ジェームズ・ボンドがベニス、リオ、アマゾンそして大宇宙へと飛び出し、地球人類抹殺を企む謎の組織に挑むシリーズ11作目。製作はアルバート・R・ブロッコリ、監督は「暁の7人」のルイス・ギルバート、イアン・フレミングの原作を基にクリストファー・ウッドが脚色。撮影はジャン・トゥルニエ、音楽はジョン・バリー、編集はジョン・グレン、製作デザインはケン・アダム、視覚効果はデレク・メディングス、スタント・アレンジャーはボブ・シモンズが各々担当。出演はロジャー・ムーア、ロイス・チャイルズ、ミシェル・ロンダール、リチャード・キール、コリンヌ・クレリー、バーナード・リー、ジェフリー・キーン、デズモンド・ルウェリン、ロイス・マックスウェル、エミリー・ボルトン、トシロー・スガなど。
【ストーリー】
アメリカからイギリスへ空輸中のスペース・シャトル“ムーンレイカー"が、アラスカ上空で突如何者かにハイジャックされた。捜査を委任された英国情報部は、007ジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)を任務に当てた。早速、上司M(バーナード・リー)から事件の背後に浮かぶ謎の大物について聞かされ、彼は現地に飛んだ。その人物とは、独自の力で米国西部に宇宙センターを築き、NASA(米航空宇宙局)に協力して“ムーンレイカー"を開発、製造してきた謎の科学者ドラックス(ミシェル・ロンダール)だ。出迎えの女秘書コリンヌ(コリンヌ・クレリー)の操縦するヘリで降り立ったボンドの前に、不気味なカリスマ的ムードのドラックスが姿を現わした。センター内を案内されたボンドは、そこでNASAの協力員として研究に従事する女性科学者ホリー(ロイス・チャイルズ)と会った。その夜、ボンドは色仕掛けでコリンヌに迫り、ドラックスの書斎に侵入し、事件のカギとみられるマイクロ・フィルム撮影に成功した。しかし、手をかしたコリンヌは翌日猛犬のエジキにされた。フィルムに写っていたガラス店をたよりにベニスに飛んだボンドは、そこでドラックスの指命を受けた殺し屋たちに襲われ、猛烈なカー・チェイスを展開する。敵を倒すと、昼間目をつけておいたガラス店奥の秘密ラボに潜り、そこで貴重と思われる薬品のサンプルを手にした彼は、ドラックスの部下チャン(トシロー・スガ)の攻撃をかわし、同じくベニスに来ていたホリーの宿泊先へと押しかけた。ボンドは、そこで彼女がCIAのスパイであることを見破った。翌日、ロンドンから急行したMらの立ち合いのもとで、秘密ラボの現場検証が行なわれるが、それはドラックスらの陰謀により、跡形もなくなっていた。残る手がかりは、ガラス店にあったリオからの貨物便だ。現地に向かったボンドは、ドラックス産業系列の輸出入会社C&Wの慌しい動きを監視するが、その頃彼と同じ行動をホリーもとっていた。互いに牽制しながらも行動を共にしていた2人は、シュガーロー山をケーブルで下山している途中、チャンの亡き後に雇われたジョーズ(リチャード・キール)に襲われ、ホリーが敵に捕えられてしまう。リオの情報部出先に出頭したボンドは、Mから謎の毒ガスが、アマゾン上流で採れる黒蘭から抽出した特殊神経ガスであることを知らされた。秘境に向かったボンドを、またもやジョーズが襲った。危機を脱したボンドの前に、一人の美女が現われ、彼を巨大な古代遺跡群に案内した。その地下にあるとてつもなく広がる宇宙基地こそ、敵の牙城だった。彼らは動植物を除いて地球人類を抹殺し、選ばれた新人類による帝国を築こうとしていた。ボンドとホリーを閉じこめ毒ガスカプセルを積んだムーンレイカーがドラックスと新人類を乗せて飛び立った。そして辛くも脱出に成功したボンドとホリーも6号機を奪い、宇宙へ飛び立った。巨大な宇宙ステーションにドッキングした2人は、スキを見てステーションの位置をNASAに知らせた。しかし、それに気がついたドラックスはすかさず地球へ向けて毒ガス・カプセルを投下した。再び捕われの身になった2人は、ドラックスの新人類計画の盲点を衝いてドラックスとジョーズの引き離しに成功。その時、ボンドら救出のために駆けつけたコマンド部隊がドラックスの配下たちと戦闘を展開した。ボンドはドラックスを追いつめ、彼を宇宙の永遠の塵に変えてしまう。そして爆発寸前のステーションから無傷のムーンレイカーにホリーともども乗り移り、投下された毒ガスの追跡を開始した。そして、すべてを壊滅させ、人類絶滅の危機から救うのだった。