アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

更科そばの怪

2007-03-19 09:37:35 | 暮らし
そば好きの私は、スーパーなどでたまに安いそばを見つけたりすると自然と手が伸びてしまう。わが家でもソバは栽培してるし手打ちそばも作るのだが、なにせ石臼で挽いてそば切りをしてとなると結構な手間なものだし、それに打ったそばは半日も置くともう麺がくっついてひと塊になってしまうので、その都度食べ切るようにしている。そんなこんなで食べる度にそばを打つのが面倒なものだから、つい買い置きの乾麺を食べる時が多いのだ。
先日買ったそばはなんと550gで100円。安い!しかも袋書きには「雄大な阿蘇の山々で育まれた・・・云々」と書いてあり裏にも「中国産」とは書いてはいないので、どうやら国産そば粉を使った物のようだ。(しかし、それでこの値段ってことはあるのだろうか?)と思いながらもしこたま買って帰った。仮に表示に偽りありで中国産だとしても、そばの場合は化成肥料も農薬もほとんど使わないで穫れるものだから、そんなに健康に悪いということはないだろう。かくてそれから当分の間は鍋に入れたりざるにあけたりして、思うままにそばを食べる日々が続いたのだった。

しかしある日私は気づいてしまった。このそばの裏書の表示には「原材料:小麦粉、そば粉、食塩」と書かれてある。その他には何もない。これを読む限り誰が見たって無添加なようだし純粋のそばその物のように思えるのだが、だが不思議に思ったのは書かれてある物の順序である。「小麦粉、そば粉・・・」どうして小麦粉が先なのか?原材料表示の際にはその食品中に多く含まれるモノから順に書いていくという決まりがあるはずだ。ということはつまり、小麦粉の方がそば粉よりも多いということか・・・
普通、そばといえば多少なりとも小麦粉を混ぜる場合が多い。これはつなぎの意味もあるし、同時に混ぜる割合によってそばの出来上がりの食感に大きく影響するものでもある。多く混ぜればつるつるのそばになり少なければ少ないほど風味の強いそばになる。因みにわが家で作るときは小麦粉は使わず、そば粉100%のそばを打つ。そうすると麺は短くブツ切れになりがちだけれど、これが本当のそばだっ!というような個性の強い物ができあがる。私はそんなそばが好きで、思えばそのために毎年ソバを蒔いてるようなものだ。つまり人それぞれに好みのそばと小麦の含有割合があるということであり、一般的にはそば粉8割、小麦粉2割が好まれるようだ。つまり世に言う「二八そば」はここから来ている。
しかし話は戻ってこのそばの袋は明らかに「小麦粉がそば粉よりも多い」と言っているのだ。ではそば粉はいったいどのくらい入ってるのだろうか。40%か、30%か・・・そこまで考えてみて鈍い私もようやく腑に落ちた。そうか、そうだったのか!これは実は「そば」ではなかった。
このそばの商品名は「阿蘇更科そば」である。因みに更科そばとは、ソバを強く精白して中の胚乳部分のみで打ったそばを言う。ソバの実は外側からソバ殻(この部分は食べられない)、種皮、胚乳、胚芽となっているが、このうち外側の種皮の割合が多いほど色が濃くて風味の強いそばになる。また逆に精白歩合を縮めれば栄養価を犠牲にする反面、淡白で色白のそばができあがり、これを一般に更科そばという。対して前者は「田舎そば」や「並そば」。もちろんどちらにもそれなりの個性があり、食べる人の好み次第なのだが、精白を強めて捨てる部分を多くした更科そばには昔からある種の高級感があった。
しかし今手にしたこのそばのように、そば粉が50%未満でかつ更科そば並にがっちりと精白するとするならば、これはもうそばかうどんかわからないくらいに白いそばができてもおかしくないのだ。でもこれにはそれなりの色が付いている。ということは精白歩合が高いということだ。着色をしていないのならばそばの精白を浅くして濃い色を出さない限り、このような麺はできないだろう。つまりこれはどう考えても「更科そば」と銘打ったニセものである。
また更に言えばそば粉が半分以下のそばなんて本来「そば」とは言えない。でもなぜこんなことが起きるのかというと、相場的にそばの価格が小麦の二倍もするというところにある。メーカーとして利ざやを稼ぐには手っ取り早く原材料の原価を落とすにしくことはない。だからこのような「そばっぽいが、そばではない」商品が出来上がるのだ。ソバが半分も入っていないという甚だしいモノは、正確には「そば風」または「ソバ入りうどん」と呼ぶべきだろう。
そうするともうひとつの欺瞞も明るみになってくる。原材料の過半を小麦粉が占めしかもこれほど安いのならば、これは疑いようもなく輸入小麦を使っている。現在日本は小麦消費量の90%を輸入に頼っており、国産小麦は価格や品質の面で輸入物と著しく差があるので、もし国産を使っているのならばまず例外なく「国産小麦使用」と書いてあるはずなのだ。つまりこのそばがあたかも国産を思わせるような表現をしているのは、明らかなゴマカシだ。因みにソバの自給率も今は20%程度なので、こちらも輸入物を使っていないのならば、「国産ソバ使用」と謳っていておかしくはない。つまりこの商品は、そばも小麦も輸入物にまず間違いないと思うのだが、それをあたかも国産品を使って作ったように見せかけているのだ。

これを機会に少しそばについて調べてみたのだけれど、現在立ち食いそばや蕎麦屋、スーパーで陳列されている物を含めて、売られている生そばの多くは「そば粉2~3割、他は小麦粉」の物が多いのだそうだ(中にはそば粉1割のものもあるとか)。加えて生麺にはその品質保持のためPH調整剤(酢酸ナトリウム、クエン酸、酢酸など)や保湿剤(プロピレングリコール)、保存料(エタノールなど)が使われているものが多い。特にプロピレングリコールは強力な殺菌効果を有するので人体に有害な化学物質として有名だ。他に軟化剤(ソルビット)、乳化剤、増粘多糖類も使われたりしている。特に輸入ソバには弾力が足りないのでそれを補うためにメタリン酸ナトリウムなどを加えるらしい。またソバの含有量が少ない分だけ色が薄くなるので、中には着色料を添加しているのもあるということだ。もちろん中には良心的なそば屋さんもあるにはあるだろう。しかし現実的には生の状態で売られているそばのほとんどが食品添加物で固められているのである。だからこのようにいつまでも保つのかと思った。片や家で打ったそばは一日たりともあのような状態を維持できない。今まで私が乾麺を買っていたのは、考えてみれば不幸中の幸いと言える。

しかし今までそばだと思って食べてたものが実はそば風うどんだったのか、と思うと我ながら可笑しくなる。自家製のものとはもちろん味も風味も違うのは当たり前だと思ってはいたのだが、まさか根本的な原材料からしてこれほどまでに違うとは思ってもいなかった。徐々に食品表示に関する法整備が進められているとはいえ、原材料表示なり商品名なり私たちの日常にはとかく誤魔化しや紛らわしいものがあまりに多すぎる。肝心の食品添加物にしろ未だに全表示には至らず、実質的に全体の5分の1ほどしか私たち消費者の目には触れないのだそうだ。これではいくら努力しても私たちは安全な食べものを選ぶことができないし、いつまでも詐欺まがいの商法がまかり通ってしまうことにもなる。
ここまで消費者をバカにしたような(しかもこうして簡単にバレる!)誤魔化しをするなんて、このそばを作った人や売る人たちはいったいプロとして疚しいと思わないのだろうか。いや、私たち消費者があまりに無知過ぎるのか・・・などと考えていてまた苦笑してしまった。元々その分野でお金を稼ぐプロかどうかと、その人の人間性とはまったく別の問題である。例えば農業においても、「エコファーマー」は必ずしも環境に留意している農家のことではないし、「有機栽培」や「減農薬栽培」と銘打って人に知られないように規定外の農薬を振っている農家はそこら辺にたくさんいる。要は知られなければいいのだ。そこにはプロ根性や前進的なプライドなど何もなく、あるのはただ欲に長けた卑小な人間がいるだけだ。つまり経済至上主義の今の世の中、プロという言葉の中にはなんらプラスの意味はなくなってしまったのだ。

これは最近「更科そば」が教えてくれた、現代社会のひとコマだった。



【写真は「えっ?そんなそばなんてあるのかっ!」と驚くスヌーピー。
いや、実は彼は雪の中でひと休みしてるのです。
雪が深いとお散歩も疲れるのだそうだ。】


コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 冬日 | トップ | サプリメント的思考 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
名人も転けるということですね (南無)
2007-03-23 15:26:06
そば風うどんってところで大笑いしました。消費者があまりに無知過ぎるというか、もうこうなると諦念というしかありませんね。本物はもうagricoさんのところにしかないのかも知れません。でも、それでもあなたは岩手の山中から下りてきて、『550gで100円。安い!』と釣り上げられてしまうわけです。世は釣る者と釣られる者しか居ないのだと思うと充分このエントリは釣りになっているような。この前お贈りした富美菊は阿弥陀如来が来迎すると言われている霊山立山の伏流水で造り上げた本物です。えぇ、間違い御座いません。うどんでもそばでも合いますよ。がはは。
返信する
自分に笑い (agrico)
2007-03-23 19:38:12
騙されていた自分に笑い、釣られてしまった自分に笑う。自分はそれ以上じゃないのだから、どんな自分にも笑っていけたらいいですね。
富美菊はいまだ冷蔵庫の中で出番を待ってますが、飛び切りの肴で、となるとなかなか手が出しづらくなってしまいます。一度はマダラを見つけたので刺身とアラ汁にして一緒にいただきました。内陸なので新鮮な魚は期待できないですが、特にタラは身が柔らかいのでしばらく醤油漬け(ヅケというんでしょうか)にしました。さすがに一気に飲むことはできませんでしたよ。酒の味などわかりませんが、最初の一杯の感動をもう一度味わいたいと思って残してとっておきました。
ちょうど明日また魚を探しに行こうと思います。ここから40分ほどかかるスーパーに時々珍しい魚があります。
考えてみればそばを自分で打って魚にすれば最高ですね。そば打ちはいつも来客があった時に体験そば打ちとして一緒に作るんですが、時間がかかるもので(特に石臼挽きが)なかなか一人ではやりません。特に雪の少なかったこの冬はなにかと忙しくて、秋に収穫した新そばをまだ一度も打ってないのですよ。本当に冬らしくない冬でした。
返信する
お久しぶりです (allie)
2007-04-01 00:47:01
アグリコさん、南無さん、こんばんは。
(叉ひょっこりとネットにもどってきました。)
早速買い置きしていた安い蕎麦みてみました。
確かに小麦粉が真っ先に表示されていました。
安い焼き海苔も買ってきて食べたことがあります。
下唇がピリピリしてはれてしまいました。
これからはあまりに安いのは買わないようにします。
返信する
自分で選ぶ食べ物 (agrico)
2007-04-01 20:48:02
allieさん、お久しぶりです。冬眠から醒めたというところでしょうか。私はこの冬は、暖かくて冬眠する暇もありませんでした。
昔、今のような科学がなかった頃には、手に入る食べものすべてを信頼できた時代があったのだと思います。でも現代の私たちは、本物もニセモノも、薬も毒も無数にある中から自分の意思で選ばないとならない。これは食べ物に限らずいろいろなことに言えることで、だから私たちは自分の体も健康も、気持ちも精神状態も幸せ不幸せも、すべて自分で選んでいることになるのですね。
小麦粉80%のそば風うどんもそれなりに美味しいものだし、かえってその方がいいという人も当然いるでしょう。というか、おそらく今ではほとんどの人が本当のそばを知らないのじゃないでしょうか。何十年か前に「こんなものをハンバーガーとして売ることについてどう思いますか?」との問いにマクドナルドの経営者は、「後20年もすればこれがハンバーガーになりますよ」と答えたという話を聞いたことがあります。それと同じことがあらゆる食品で起きているのでしょう。たぶん今ではマクドナルドの製品を本来のハンバーガーだと思っている人がほとんどでしょう。
もちろんそれはそれでもいいのですが、選ぶものとそれがもたらす結果を認識することは大切だし、それをして始めて食を大切にすることになる。意外と本物や体にいいものは、必ずしも値段が高いとは限らないしその反面お金で買えなかったりもします。問題は本物が手に入らないというジレンマではなくて、ニセモノに慣らされそれなしではいられないという自分自身なんでしょうね。
返信する

コメントを投稿

暮らし」カテゴリの最新記事