粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

スペインの風力発電と日本

2015-01-11 16:10:30 | エネルギー政策

日本の再生可能エネルギーを朝日新聞などの反原発系メディアがもてはやしているが、昨年後半九州電力が新規再エネの固定価格受け入れを中止したことで、その勢いも衰えたかに見えた。しかし、そこは朝日、別な切り口から再エネ擁護に新たなキャンペーンを始めている。

朝日でもこちらは週刊朝日だが、1月16日号の特集「スペイン最新鋭施設「再エネだけで電力供給の8割」がそれだ。まさに九州の敵をスペインでとる?それも再エネといっても太陽光でなく風力発電礼賛である。

固定価格買い取り制度(FIT)を積極的に活用し、再生可能エネルギー(再エネ)が充実しているスペイン。この国の再エネ比率は、ここ10年間で4倍以上に増加。2013年には約26%を占め、いまや原子力や石炭を上回り、首位をキープする。中でも風力発電が最も多く、設備容量で原発20基分を超えていた。

記事によれば天候によって影響を受けやすい再エネが増えても電力需給バランスが不安定になることはスペインではおこっていないという。系統接続の保留問題といわれるものだが、スペインでは電力調整業務を唯一の送電会社であるレッドエレクト・リカ・デ・エスパーニャ(REE)が運営している。

マドリード郊外の本社内にある中央制御室を覗くと、国内のどの系統でどんな電源がどの程度発電しているのかリアルタイムでわかる巨大な表示盤があった。「我々は国内電力の細かな需給予測を日々行っています。その上で需給バランスを調整するため、火力と水力発電に関しては4秒ごとに出力調整を行うことができるのです」(REEのシステム運営責任者)

具体的には「全国32カ所にある電力会社のコントロールセンターと会社の中央制御室を光ファイバーケーブルでつなぎ、すべての情報がオープンにされる。つまり、全国の再エネの出力状況が瞬時に把握される。その情報をもとにスペイン気象庁のデータを駆使して綿密な発電予測を行うということだ。その予測を通じて、即座に火力や水力といった既存の電力の出力を調整するという。

記事の取材時では再エネで全電力供給の50%をまかなっていたようだが、80%になることもあるという。おそるべし、再エネだ。送電の系統業務を一手に引き受けているスペインだからこそ可能な話だ。まさに朝日が理想とする究極のエネルギー政策だ。

ただ、朝日が考えているほどに、そこはすべて再エネでよいことずくめといかないようだ。記事の見出しに「電力供給8割」とあるが、残り2割は実は原子力なのだ。また再エネといっても風力が中心だが、水力も多い。反面太陽光は数パーセント程度しかない。

スペインの電力事情はある記事によれば下記の通りだ。(2014年1~5月の発電量の実績値)

再生可能エネルギー

風力24.5%、水力21.8%、太陽光2.9%、再生可能熱1.8%、太陽熱1.7%、

その他

原子力22.9%、コージェネレーション9.8%、石炭火力8.1%、コンバイトサイクル(ガスタービン)6.5%、などとなっている。

スペインではその他の電力のうち原子力以外の火力で需給調整され、再エネでも水力が一部調整が行われる。

原子力はスペインの前政権が脱原発の政策をとってきたが、現政権では維持の方向に転換している。したがってスペインは決して「脱原発国」ではないのである。しかも太陽光発電の低さは日本とさしてかわらない。

また週刊朝日が「再エネ8割」と盛んに強調しているが、これも「うまく風力が全開すれば」の話であり、天候によっては実際は低い時もあることは覚悟しなければならない。2014年1~5月の実績値で再エネが約5割となっているのは、いわば平均値であってこれを下回る日も当然考えられる。つまり、再エネはいつまでも不安定な電力(水力を除く)であって実際火力が原子力とともに基礎電力であってそのアンバランスを補うために逆に増設されているのが現状だ。

また、スペインでもいわゆる再エネの固定買取制度を実施されていたが、電力会社は慢性的な赤字が続き現在この制度が形骸化している。最近のデータでは風力が発電能力では原子力を抜いて全電力のトップを誇るたが、あくまでも発電「能力」であって実績ではは必ずしもおぼつかない。

一方日本の場合はどうであろうか。風力発電は全電力の1%にも満たない。ウィキペディアでよれば日本では欧米諸国と比較して普及が進んでいない。台風に堪えうる風車を施設すると欧米と比べてコストが上がることや、大量の風車を設置するだけの平地の確保が難しいなどがあげられる。したがって設置が簡単な太陽光の方がクリーンエネルギーとしては歴史がある。もちろん日本政府も原発重視策も風力への依存傾向が弱いことも事実だ。

また風力は温暖化政策として「環境に優しい」かもしれないが、近隣への騒音や低周波音の苦情も発生している。あるいは風光明媚な自然が多い日本では景観を損なうという批判も少なくない。

ドン・キホーテの昔から風車が原風景として存在したスペインと日本とはまるで事情がことなるのだ。スペインの盛況をことさら持ち上げて、日本の再エネ推進の援護射撃を週刊朝日がしようとしても残念ながら弱すぎる。その上スペインでも裏事情はみると決して明るいとはいえない。

確かにウィキペディアでも指摘しているが,洋上風力発電は今後の日本では前述の欠点を克服するホープの一つになりうるかもしれない。発電したものを移動電源に変換する技術が整備されたらの話だが、その開発には時間がかかる。それまで風力発電はじっくり気長に日本の国土に根を下ろすのを見守るしかない。


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