粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

福島県の甲状腺がん検査

2014-09-09 16:43:11 | 福島への思い

ある女医さんの記事を読んで考えさせられた。福島の相馬中央病院に勤務する越智小枝内科医のエッセイ「『福島浜通りの現状』敵は放射線ではない」だ。原発事故後福島の病院で県民を診察してきたが、このタイトルの通り、福島特に沿岸部で人々にとって健康についての悩みは全く被曝とは関係ないところにある。

越智医師の記事では事故後の避難生活の健康被害も問題にしているが、特に印象に残ったのは福島県が進める県民健康管理調査の中心となる甲状腺がん調査についてである。具体的には「甲状腺スクリーニングによる被害」ということだ。県内の18歳以下の子ども37万人を対象にした大掛かりなエコー検査だが、彼女が伊達市のシンポジウムで住民からこれを疑問視する声を紹介している。

 

「ようやく風評被害が落ち着いたところでスクリーニングを行ったことで、『やっぱり福島は危険なんじゃないか』と言われるようになってしまった」と、スクリーニングの存在そのものが風評被害を助長した、という意見もありましたし、子供が「A2」(注・検査結果で小さなしこり、嚢胞(のうほう)がある)と言われた時の心理的負担を話される方もいました。

中でも問題になったのが過剰医療の可能性です。医療者側が見つかったがんを過剰に手術をしている、と取られる傾向にあります。しかし実際の所は、不安になった親御さんが「お子さんは癌です、だけど小さいから待ちましょう」という方針に納得できず、早めに手術を受けさせたがる、ということも多かったとのことです。

 

確かにこうしたスクーリングは本来発見されない甲状腺がんを無理矢理探し出し、子どもやその親たちに不安や将来への悲観を与えかねないことは問題として残る。A2(結節5.0ミリ以下、のう包20.0ミリ以下)という2次検査も基本的に必要がない判定も、いたずらに不安を煽っているともいえる。その点はこの女医の指摘の通りだと思う。

ただ、だからといって、福島県の甲状腺がんの先行検査が有害とは決して思わない。それは、放射能汚染による被曝で第一に懸念されているのが子どもの甲状腺がんだからである。チェルノブイリ事故で被曝の影響でWHOなどの国連機関が甲状腺がんを唯一正式に認めた。原発事故=甲状腺がんが健康被害論争の主戦場になっているのだ。これを離れては日本国内に拡散した放射能忌避は解消できない。

県の健康管理調査はここ3年の甲状腺がん予行検査を経て新たな本格調査に入る。これからの時期は、被曝の影響が実際にあるのかを調べる核心部分を検証することになる。そのためにはこれまでの先行調査の結果が基礎データになる。

自分自身の予想ではこれからの本格調査では甲状腺がんと新たに判定される子どもが増加することはなく、むしと減少すると思われる。それほどに福島の被曝が子どもたちに与える影響はチェルノブイリと比較にならないほど軽微だと見られるからだ。

越智医師は「「『先行調査のうちに小さな癌を見つけておけば本格調査での検出率が下がるか、原発の影響は少ない、と言おうとしているのかもしれない』などと、むしろスクリーニングを行う事で政府への不信を強めた方もいらっしゃいます。」先行調査に疑問を呈している。確かにそうした側面はあるだろうが、『原発の影響が少ないといおうとしている」ことを評価してもよいのと思う。

これが福島の安全を日本国内外にアピールできる決定打になるのではないか。もちろん、越智医師が指摘するように、甲状腺がんとスクリーニングに対する県民の誤解や疑問に応え丁寧にできる限り説明する必要があるとは思う。