訳者 吉田花子
著者 アンヌ・フィリップ(1917~1990)
一人暮しの母親は、一度目の卒中で倒れ、パリのアパルトマン暮しの娘との狭苦しい同居生活になじめず、
フランスの地方の老人ホームにもなじめず、結局住み慣れた自宅で一人暮らしを始める。
二度目の卒中では、ついに一人暮らしはできず、娘は母親の近くに住む従姉妹の助けを借りながら、
母親を自宅で看取るまでの、淡々と書かれた介護の記録です。
時には、食べ物も咽喉を通らない母親に「ワイン」や「シャンパン」をわずかに飲ませる
娘の心遣いに、新鮮な驚きと感動すら感じる。
自宅の病床にいたまま、死を前にして、ドクターやナースが訪問するということは、
今の日本の医療では考え難い状況ですが、この事実は注目に値する。
その後の埋葬の手続き、お葬式のやり方に至るまでも書かれています。
すでに、父母の介護の後に、お葬式までやらねばならなかった私自身、身につまされる
思いでした。そして「死」というものが私に遠いものではないという時が来ています。
埃だらけの家で、一人暮らしを続けた母上に、自分が重なる日が来るかもしれない。
子供を育て、家族の世話に追われ、老親の介護と看取り、
今は、病んでいる夫との暮しだが、いつか一人になる。
その時、私も恐らく「一人暮らし」を望むだろう。アンヌの母のように。
(1998年1月30日 晶文社刊)