物語:寺 その2
ジョルとギャツァはまた河原まで馬を走らせた。
そこで、手下の大軍を使って大地全てに穴を開け、牧草全てを枯らすことの出来るネズミの王を矢で射殺した。
三日後、二人が再び河原に来ると、雨上がりの大地は生命を回復し、青々とした草の葉が地上を覆い、まるでけぶっているようだった。
瞬く間に、家を失って彷徨っていた牧人たちがここに根を下ろした。
ギャツァは知った。リンの新しい生息の地は、弟ジョルがこのようにして開いて来たのだと。
そして、心から言った。
「弟よ、お前こそ我々の王になるべきだ」
ジョルはその場ででんぐり返しをして、醜くも滑稽な風体に変化した。
「誰かの王だなんて…」
ギャツァは馬から降り、兜を脱ぎ、弟の前にひれ伏した。
「オレにはお前の兄と言えるだけの力がないのだ」
弟は元の姿に戻り、兄を引き起こし、額を兄の額に貼り付けた。
ジョルは言った。
「ここで別れましょう」
「僧たちを本当に来させるのか」
「すぐやって来るでしょう」
「だが、寺はまだ出来ていない…」
ジョルは遠くの峠を指して言った。
「兄さんがあそこに着いた時、振り返って見てください」
ギャツァは馬に乗り、遠くへ向けて駆けて行った。
ジョルは天の兵たちが天から自分を守っているのを知っていたが、気付かないふりをしていた。
普通の人が見えないものをジョルは見ることが出来る。
そろそろ彼らに姿を現してもらおうと、言った。
「雲の後ろに隠れている兵たちよ、私の前に降りて来い」
天の兵たちはそれに応えて姿を現し、輝く甲冑と輝く刀、鉾がジョルの前に整列した。
ジョルは言った。
「人々は疲れている。天の菩薩のご意志で寺を作るのだ。お前たちは神の力を現して、すぐに寺を完成させてくれ」
天の兵士と神々は再び空に昇って行くと、間もなく、空に黒い雲がモクモクと現れ、寺を建設中の小さな丘を覆い尽くした。
雲の中では雷鳴が轟き、稲光が走り、矢のようなにわか雨と重い霰が降って来て、石工と大工は丘から逃げて行った。
後ろでこのような大騒ぎが起こっても、ギャツァは振り向かなかった。
豊かな河原を見通せる峠まで来て、やっと後ろを振り向いた。
彼は大工や石工と一緒に雲が分れ霧が晴れるのを眺め、空の端に虹が懸かるのを見た。
寺は既に完成していた。
重厚な赤い壁は力強く、金色の塔の先は秋の空に刺さっていた。
ジョルは再び兄の前に奇跡を現したのである。
ギャツァはより強く確信した。
ジョルのみが未来のリン国の王にふさわしいと。
未来のリン国の王が僧たちを寺に住まわせるのなら、自分もまた必ず僧たちを寺に来させよう。
だがどのようにして彼らを権勢争いに明け暮れる城から立ち去らせるのだろう。
戦場では勇猛ながら生来善良な人物には手に余る問題だった。
この思いが道中ずっと彼の心を不安にさせていた。
だが思いもよらず、半分ほど来た所で二人の僧が新しく入信した弟子を数人連れて忙しげに向かって来るのに出会った。
彼らは仏像と経典を携えていた。
二人の僧は既に絹の衣を脱ぎ捨て、数人の弟子はぼさぼさの長髪を剃り、さっぱりとした頭には細かい汗が日の光を反射していた。
天の兵たちがジョルを助けて寺を完成させたという知らせは、電光のように四方八方に走り、飛ぶように道を急ぐギャツァまで届いた。
「仏の教えが無辺の力を示したのです」
僧はギャツアに言った。
「それは、僧が寺に戻ったことだけにとどまりません。
世の人々はっきりと知るでしょう。
この後、リンには多くの寺が星のように建ち並び、寺の金の頂がリンの祝福された山の上に煌めくだろうということを」
そう言うと、僧たちはあわただしく彼らの寺へと向かって行った。
ジョルとギャツァはまた河原まで馬を走らせた。
そこで、手下の大軍を使って大地全てに穴を開け、牧草全てを枯らすことの出来るネズミの王を矢で射殺した。
三日後、二人が再び河原に来ると、雨上がりの大地は生命を回復し、青々とした草の葉が地上を覆い、まるでけぶっているようだった。
瞬く間に、家を失って彷徨っていた牧人たちがここに根を下ろした。
ギャツァは知った。リンの新しい生息の地は、弟ジョルがこのようにして開いて来たのだと。
そして、心から言った。
「弟よ、お前こそ我々の王になるべきだ」
ジョルはその場ででんぐり返しをして、醜くも滑稽な風体に変化した。
「誰かの王だなんて…」
ギャツァは馬から降り、兜を脱ぎ、弟の前にひれ伏した。
「オレにはお前の兄と言えるだけの力がないのだ」
弟は元の姿に戻り、兄を引き起こし、額を兄の額に貼り付けた。
ジョルは言った。
「ここで別れましょう」
「僧たちを本当に来させるのか」
「すぐやって来るでしょう」
「だが、寺はまだ出来ていない…」
ジョルは遠くの峠を指して言った。
「兄さんがあそこに着いた時、振り返って見てください」
ギャツァは馬に乗り、遠くへ向けて駆けて行った。
ジョルは天の兵たちが天から自分を守っているのを知っていたが、気付かないふりをしていた。
普通の人が見えないものをジョルは見ることが出来る。
そろそろ彼らに姿を現してもらおうと、言った。
「雲の後ろに隠れている兵たちよ、私の前に降りて来い」
天の兵たちはそれに応えて姿を現し、輝く甲冑と輝く刀、鉾がジョルの前に整列した。
ジョルは言った。
「人々は疲れている。天の菩薩のご意志で寺を作るのだ。お前たちは神の力を現して、すぐに寺を完成させてくれ」
天の兵士と神々は再び空に昇って行くと、間もなく、空に黒い雲がモクモクと現れ、寺を建設中の小さな丘を覆い尽くした。
雲の中では雷鳴が轟き、稲光が走り、矢のようなにわか雨と重い霰が降って来て、石工と大工は丘から逃げて行った。
後ろでこのような大騒ぎが起こっても、ギャツァは振り向かなかった。
豊かな河原を見通せる峠まで来て、やっと後ろを振り向いた。
彼は大工や石工と一緒に雲が分れ霧が晴れるのを眺め、空の端に虹が懸かるのを見た。
寺は既に完成していた。
重厚な赤い壁は力強く、金色の塔の先は秋の空に刺さっていた。
ジョルは再び兄の前に奇跡を現したのである。
ギャツァはより強く確信した。
ジョルのみが未来のリン国の王にふさわしいと。
未来のリン国の王が僧たちを寺に住まわせるのなら、自分もまた必ず僧たちを寺に来させよう。
だがどのようにして彼らを権勢争いに明け暮れる城から立ち去らせるのだろう。
戦場では勇猛ながら生来善良な人物には手に余る問題だった。
この思いが道中ずっと彼の心を不安にさせていた。
だが思いもよらず、半分ほど来た所で二人の僧が新しく入信した弟子を数人連れて忙しげに向かって来るのに出会った。
彼らは仏像と経典を携えていた。
二人の僧は既に絹の衣を脱ぎ捨て、数人の弟子はぼさぼさの長髪を剃り、さっぱりとした頭には細かい汗が日の光を反射していた。
天の兵たちがジョルを助けて寺を完成させたという知らせは、電光のように四方八方に走り、飛ぶように道を急ぐギャツァまで届いた。
「仏の教えが無辺の力を示したのです」
僧はギャツアに言った。
「それは、僧が寺に戻ったことだけにとどまりません。
世の人々はっきりと知るでしょう。
この後、リンには多くの寺が星のように建ち並び、寺の金の頂がリンの祝福された山の上に煌めくだろうということを」
そう言うと、僧たちはあわただしく彼らの寺へと向かって行った。
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