胡波監督の『象は静かに座っている』を見た。奇跡のように美しい映画だった。
中国河北省石家荘の小さな町に暮らす四人のある一日を描いている。
物語は重い。
友人の妻と一夜を共にし、友人を自殺に追いやった男。誤って同級生を殺してしまった高校生。教師と交際する女子高生。家族から老人ホームに追いやられようとしている男性。
登場人物のだれもが傷つき罪を犯し、それを他のせいにしようともがき、もがくほどにどんどん深みに落ちていく。そうやって周りを傷つけ、傷つけることによって自分の罪を知っていく。その時から何かが変わり始める。
象を求めて旅が始まる。
風景も重い。
空は常に曇っている。だがそれは、そっとベールをめくるとその奥に熱を持った色彩が隠れているかのような深い諧調の灰色だ。
象を求める旅に救いはないだろう。その先にあるのは光などではない。今と同じような出口のない日常だ。
それでもある瞬間、彼らは暗闇の中に美しい光景を生み出す。彼ら自身はそれを知らない。
彼らの苦しみが生み出したその一瞬を私たちはいとおしく見つめる。
4時間という長さを感じさせない、いや、もっとここにいたいと思わせられる。
監督がすべての魂を注ぎ込んだ作品だ。