塵埃落定の旅  四川省チベット族の街を訪ねて

小説『塵埃落定』の舞台、四川省アバを旅する

阿来『ケサル王』 ㉓ 語り部 機縁 

2013-10-22 03:09:03 | ケサル
語り部 機縁 その2




 ジンメイはこの時、自分が夢の中にいるのだと分かっていた。
 夢には夢の自由がある。

 神の子が消えると、ジンメイの視線は水辺の背の低いテントに移った。重い心を抱えながらテントの前で遠くを見つめている女性がジョルの母親、龍の娘メドナズだった。彼女の傍らに夫のセンロンはいなかった。

 どうしてジョルの母親は夫の家である城にいないのだろう
 どうしてジョルの母親は心配そうな顔をしているのだろう。

 ジンメイは夢の中で疑問を声に出した。だが、千年以上前の女性には聞こえなかった。

 夢の中のモノは思いのままに現れる。
 いきなり一本の木が現れた。画眉鳥がその枝でしきりに鳴いている。
 それは鳥の鳴き声ではなく人間の言葉だった。

 「メドナズの子供は自分が神の子であることを忘れてしまい、天から授かった力を勝手に使ってたくさんの獣や鳥を殺したので、みんなジョルを憎んでいるのさ」

 ジンメイはジョルに代わって弁解した。
 「それは、たくさんの妖魔や物の怪が鳥や獣に化けているからじゃないのか」
 「ジョルはそう言ってるが、誰もジョルを信じちゃいない」
 「分身できる狐は妖魔が化けたものだというのは知るっているけど、でも、ジョルが殺した獣は全部が全部、本当に妖魔だったんだろうか」

 画眉鳥は木の上でぴょんと跳びあがった。
 「なんだって。おまえは、このワタシにかわいそうな子供の悪口を言えというのか」
 「オレはジョルの母さんがかわいそうで…」
 「そうか…」画眉鳥は翼を広げてその胸を叩いた。
 「おまえはみんなが思ってるほど馬鹿ではなさそうだ」

 饒舌な画眉鳥は続けた。
 「みんなはワタシをおしゃべりだというが、でも、やはり言わせてもらおう」
 話が始まったかと思うと、怪しい鳥は突然ギャーッと一声叫ぶと、翼を震わせて飛んで行ってしまった。

 ジョルが来たのだ。
 ジョルはたくさんの狐の死体を持ち帰り、血や肉、腹の中の汚物、脳みそを辺りにまき散らした。
 緑の腸をおもいつくままの形に結んでは、木の枝にぶら下げ、自分のテントの入り口にまで掛けた。血なまぐさい空気があたりのものすべてを覆い尽くし、空の鳥、地上の獣、地下に暮らす尾のない鼠たちはそれぞれにこそこそと逃げ出した。

 もはや神の子ではないかのようなジョルは、将来彼の功績を歌うことになるジンメイに向かって歯をむき出して笑った。
 ジンメイは驚き、必死で夢の外へ抜け出した。

 ジンメイは自分が夢の中にいるのが分かっっていて、悪夢から抜け出す唯一の方法は夢の外に逃れることだとも分かっていた。
 思った通り、慌てふためきながらあちこち走り回っている自分が見えた。一つの山、また一つの山と駆け上がって行く。

 だが山はまだずっと先まで続き、まるで波のように次から次と、自分めがけてやって来る。
 助けを呼ぼうにも、いくら頑張っても声にならなかった。

 その時、老総督ロンツァ・チャゲンが目の前に現れた。白い髭をなびかせた総督は言った。
 「走らなくてよい。恐れることはないのだ」

 後から波のように迫っていた悲惨な状況が突然消えたのが分かった。頭の上ではすでに雲が薄れ澄み切った空がのぞいている。
 だが、老総督は憂いに眉をきつく寄せていた。
 「ジョルはお前をびっくりさせたのだな」

 ジンメイは何度もうなずき、同時に疑問をぶつけた。
 「ジョルはどうしてあんなに変わってしまったんでしょう。どうして母親と一緒に城に住まないのですか」

 総督は暫くジンメイを見つめ、首を振りながら言った。
 「わしは夢を見た。夢はこう告げていた。この男は天からの知らせを受けることが出来る、そのわけをわしに教えてくれることが出来る、と」
 「オレの夢はまだ終わってません。やっと天界の入り口に着いたところです。神様の姿もまだ出てこないんです」
 「そのようだな、お前の目の中に天界から来た者が持つ特別な光が見て取れない」

 こう言い終わると、老総督は消えた。ジンメイも続けて夢から醒めた。
 彼はその時気づいた。目の前にある山、湖、河は、夢の中で見た景色そのものであることを。

 黄昏時、羊を追って村に帰る道々、ジンメイは自分が見た夢に悩んでいた。彼が夢で見た情景と人が語る物語があまりにも違っていたからである。

 囲炉裏の傍らに座って簡単な夕飯を食べると、少し眠くなった。
 高い六弦琴の音がジンメイの心を震わせ、朝、道で会った語り部を思い出した。

 老いた語り部は、芝居の衣装のような錦の長い服を身に着け、周りを囲む人々にかなり前から早く語り始めるよう囃したてられていたが、ただひたすら琴を撫でるばかりだった。
 ジンメイが囲炉裏の前に現れると、語り部はやっと表情を緩め、さっと立ち上がって語り始めた。

 「ルアララムアラ、ルタララムタラ!
 縁のあるものが現れた、
 羊飼いのお坊ちゃま、どの段がお好きかね」

 ジンメイは苛立って叫んだ
 「神の子は、4歳を過ぎたばかりで、神の心はもう消えかけていた!」

 この言葉を聞き、物語をよく知る村人たちは一時騒然となった。
 老いた語り部が両手を下に向けて皆を制し、あたかも国王のように命令すると、聴衆はすぐおとなしくなった。まるで薪の上で炎を揺らしていた風が方向を変えたかのように。

 静寂の中、琴の音が高く響いた。まるで月が光を放って地面を照らしたかのようだった。
 今ここで、一人の語り部の物語に違った道筋が現われるかもしれない。

 もともと、神が人間界に降りて来たとしても、そのまま衆生の長になれる訳ではない。必要な曲折を経て、衆生の心を敬服させてから、最後に人々の上に立って呼びかけた時、初めてそれに応える者が雲のように集まってくるのである。

 ジョルの一挙一動はみな天神の視線の内にあり、これから人を遣わして更に神通力を授けることはなくとも、持って生まれた力は凡人とは比べ物にならなかった。
 術士や妖怪たちと常に交わり、卑劣な行いを多くしてきたトトンもジョルの相手ではなかった。


 もし、これがまさに繰り広げられようとしている芝居であるなら、舞台に登場したばかりの主役がこのように演じるのは、すでに監督の演出に背いていることになるのではないだろうか。
 それとも、この意外な展開は、監督の施した、より深い意味を持つ演出なのだろうか。








阿来『ケサル王』 ㉒ 語り部 機縁 

2013-10-14 10:26:37 | ケサル
語り部 機縁 その1



 「よく似ている……ジョルが生まれた時にはもう三歳の子と同じ大きさでしたね」
 「そう、よく分かるだろう。ジョルは普通の生まれではないのだ」
 「もっと先を話してください」
 「目の前にあった大きな山は動かされた。どうしてかはワシに聞いても無駄だ。物語の中では大きな山も動かそうと思えば動かせるのだ。さあ、分かれ道を塞いでいた大きな山々は他へ移された。広い道が現れたぞ」

 だが、羊飼いジンメイの目の前には何も現れなかった。

 雪山や草原で、多くの人がそれぞれの場面で突然に、千年の間伝えられると定められた古い歌と出会って来た。だがそれも肩をすり合わせる程度で、その後に機会があるとしたら、それはただ聞くだけで、しかも、人々の幸せを祈るためではなく、英雄を懐かしんで語られるのを聞くだけだった。

 老いた語り部は言った。
 「若者よ、この河の曲がっている所を見てごらん。河の水が岩を打つ時に発するのは空っぽな音ではないのだ。ワシがこの地でこの時にお前と出会ったのは、特別な縁なのだ。だから、ワシに英雄ケサルの偉大な系図を整理させてくれないか」
 「それができたら、オレはどうしたらいいのですか」
 「ワシには分からん。ただ言えるのは、この偉大な物語と出会ったすべての場面をもう一度なぞってみろ、ということだけだ」

 「出会う? オレは夢を見るだけです」

 老いた語り部は少し笑って言った。
 「出会うとは夢に見ることだ」

 老人は手に持った琴を鳴らした。その高い金属的な振動は、若い羊飼いに不思議な感覚をもたらした。

 足元の大地が旋回し始め、天上の雲は飛ぶように消え去り、天の門が大きく開いて神々が今にも降りて来ようとしていた。

 だが、それはほんの束の間の感覚だった。老人の指が弦から離れ、琴の音が突然止むと、それらすべてがカラカラと音を立てて、また元の位置に戻っていった。
 ジンメイは呆然として、まるで重いカーテンに目の中の悟りの輝きを遮られてしまったようだった。

 ジンメイは寝言のように言った。
 「琴が…琴の音が消えてしまった…」

 老いた語り部は少し後悔した。機縁がまだ来ていないのだとしか考えられない。
 そうしてやっと琴の弦から指を離した。琴を袋に仕舞うと言った。
 「もしここがお前の村なら、一晩泊まって、村の前にある木の又が伸びて龍の爪のようになった古い柏の木の下で語るのだが」

 ジンメイは、自分が暮らすこの小さな村では、語り部は十分な布施を受けられないのを知っていた。
 ジンメイは語り部のために羊を一匹殺すことにした。
 老いた語り部は言った。
 「よい羊飼いは春に雌の羊を殺したりはしない。英雄を語りたいなら、このおいぼれが琴を奏でながら語るのを聞くだけでいい」

 この日ジンメイは雪山を望むつつじの花がまばらに咲く斜面に寝転がり、雪山を見つめながら啓示に富んだ雪崩が始まるのを期待していた。日は暖かく、すぐに眠りに落ちたが、夢は見なかった。
 すでに馴染みとなった焦りの感情がまた胸の内に湧き上がって来た。

 ジンメイは起き上がり雪に覆われた峰の下の湖に向かって歩いて行った。暫く行くと湖のほとりにテントが一つ現れた。このテントは見るからに形といい素材といい、遥か昔のもののようだった。次にあの子供が目の前に現れた。

 「君は…」
 「違う」

 ジンメイは、君は神の子だね、と言いたかった。だが、その子はすぐさま否定した。まだ尋ね終っていないのにすぐ否定するとは、それはこの子が本当にあの神の子だと説明したのも同じことだ。
 だがその子の顔はうす汚れ、生まれたばかりの時に聡明さを現していた宝石のようなに輝く眼差しは暗曇り、それに取って代わったのは不吉な表情だった。

 子供はジンメイにあかんべえをして、向きを変えると、今穴から出て来たばかりの狐を捕えに行った。

 狐は逃げながら何匹もの狐に分身した。子供も同じようにいくつもの分身に分かれ、それぞれが一匹の狐を追いかけた。
 ジンメイは、斜面を埋め尽くし目の前を埋め尽くす狐とジョルを見ていた。
 目に怪しい光を湛えたジョルの足元に狐が踏みつけられるごとに、山は血で汚された。一つ一つのジョルの分身は狐の死体を引き裂き、手足、内臓、血と肉を辺りにばらまいた。

 ただ一人のジョルだけは、狐を足で踏みつけたまま、岡の高いところに微動だにせず立っている。それがジョルの真身だった。

 自分の分身が作り出した血なまぐさい風景を見ながら、その表情はひどくうろたえていた。
 ジンメイは思わず叫んだ。

 「神の子!」

 子供の目の中には期待した表情は現れなかった。だが、一人の民が発した叫び声は耳に届いたようだった。何故なら、子供が困ったような表情で空を見上げるのをジンメイは見たからである。

 何かに促されたように、子供が下を向いて山を埋め尽くす殺戮の血の跡を見た時、その顔に憐憫の表情が現れた。そして、分身はすべて消え、死んだ狐のおびただしい分身も消えた。

 子供はその死んだ狐を引きずりながら山を下りて行き、ジンメイの目の前から消えた。










本来のケサル王物語 

2013-10-09 02:18:52 | ケサル



阿来の『ケサル王』は、現代の小説で、ケサルと語り部の交感を描いています。
二つの世界が交互に現れて、それがどこで交差するのか、ミステリアスでもあります。
ただ、そこからケサルの物語そのものの楽しさを見つけ出していくのはなかなか難しいかもしれません。

その、『ケサル王物語』をチベット語からきちんと訳している素晴らしいサイトがあります。
宮本神酒男さんのチベットの『英雄叙事詩ケサル王物語』です。
http://mikiomiyamoto.bake-neko.net/gesarindex2.htm

語りの部分も歌の部分もすべて訳されているので、ケサルの華麗な世界に圧倒されます。
ちょっと手ごわいですが…

ぜひ、合わせてお楽しみください。

そして、
10月12日から始まる横浜ジャック&ベティでの『ケサル大王』上映会で宮本さんのお話を聞くことが出来ます。

10月14日(月)上映後、宮本神酒男『みんなケサル大王に夢中だった』、です。
http://www.jackandbetty.net/cinema/detail/192/


とても楽しみです。
たくさんの方に聞いていただきたいと思っています。










ドキュメンタリー『ケサル大王』上映会のお知らせ

2013-10-08 02:18:05 | ケサル
いよいよ今週の土曜日、10月12日からドキュメンタリ―『ケサル大王』の上映会が始まります。お近くの方はぜひぜひご覧ください。


首都圏初のロードショー!
10月12日(土)-18日(金)
毎回14時15分~
横浜・ジャック&ベティ     

045-243-9800   
一般1800円 大・専1500円 高校以下シニア1000円  
ネット予約1500円 リピーター予約1000円http://gesar.jp/
トーク 12日(土)大谷寿一監督「アムドの旅からー最新現地報告」
13日 (日)ペマ・ギャルポさん「ケサル大王と我が少年時代」
14日 (月)宮本神酒男さん「誰もがケサルに夢中だった」
                



詳しい解説と予告編
http://www.jackandbetty.net/cinema/detail/192/

監督のfacebook ページ
熱い想いが詰まっています。
https://www.facebook.com/pages/%E3%82%B1%E3%82%B5%E3%83%AB%E5%A4%A7%E7%8E%8B/419486081451560

監督のホームページ
http://gesar.jp/













阿来『ケサル王』㉑ 物語 前口上 

2013-10-05 09:02:44 | ケサル
物語:前口上



 さてさて、神の子が天から降ったのは高貴な血筋の家柄でありました。


 ところで、人の世で位の高いお家柄はおしなべて複雑なもの。
 あたかも古い大樹のように幾つもの枝に分かれ、身内でない者が見上げたら、入り組み絡み合った姿は、なんとも複雑に見えるもの。

 そうそう、リンはチベットを構成する一部分、ならばまず、チベット全体の様子からお話しいたしましょう。

 チベットで最も古いのは六つの氏族。
 真貢の居熱氏、達隆の喝司氏、薩迦の昆氏、法王朗氏、京布の賈氏、乃東の拉氏です。


 とはいえ、この古い氏族も初めから終わりまで変わらない生命力を持ち続けるのは難しく、時代が変われば勢は移り、この後のチベットで名を為したのは、新しく起こった九つの氏族でした。
 この九大氏族を目の当たりにして、古い六つの氏族の血筋の方々の思いはさぞ複雑だったことでしょう。

 では、人々から崇められるこの九つの氏族の名を、泉が湧き出す如くお聞かせしいたしましょう。
 嘎、卓、冬の三氏、賽、穆、董の三氏、班、達、扎の三氏、合わせて九つです。
 

 新しい氏族と古い氏族は、青蔵高原の様々な場所でそれぞれに暮らしておりました。
 天から眺めれば、西はタジク国ガリ地方のプラン、ググ、マンユウの三つの地方に接し、
 そこは雪山と岩壁と透明な光に包まれた場所でした。

 目を中央に向ければ、そこは玉日、衛日、耶日、元日というチベットの四。

 その隣がアムド・カムの六つの尾根。
 六つの尾根は六つの神山を戴いています。
 その神山とは瑪扎崗、波博崗、察瓦崗、欧達崗、麦堪崗、木雅崗の六山。

 黄河、金沙江、怒江、瀾滄江の四つの大河がその間を縫うように流れます。
 山と河の間は牧場と畑が交互に入り交じり、その間にたくさんの村々が星のように散らばって、聳え建つ砦がそれらを一つにまとめておりました。

 上、中、下リン十八は、四つの河六つの尾根の間の、広々とした土地にあったのです。

 歌に曰く

  糸の切れた真珠のように あらゆる片隅まで散らばっている。
  風に蒔かれた種のように 広い草原中に散らばっている。



 いやいや、まだ語りは終わってはおりません。
 続けてお話しいたしましょう。ウォン。


 知恵の長者にこのような格言があります。

  天を衝く大樹を知るのには見ただけで分かったと思ってはだめ。
  履物を脱いで上まで登り、すべての分れ目、すべての小枝まで見てごらん。



 ということで、皆さま今しばらくご辛抱いただきましょう。

 小道を通り抜ければ大きな道に出るもの…


 では語り部の帽子をかぶらせていただきます。ウォン。
  
 まずこの帽子についてお話しましょう。
 ほらこの形、高い山のよう、金糸銀糸がその間を縫い……

 はいはい、では、帽子のことは明日またお話しするとして、
 やはりリン十八を統率する高貴この上ない穆一族についてお話しいたしましょう。


 やれやれ、今の方々はどんどん気が短くなっていく。
 そこのお方、何とおっしゃった?貴族の系図の話がいつの間にか場所の話にそれてしまったって?


 では、急いで先へ進むことにして…
 穆一族の枝一本蔓一筋まで、すべて語って御覧に入れましょう。


 穆族がチューファンナブの代まで伝わった時、賽妃はラヤダクを生み、文妃はチージャンパンジェを生み、姜妃はザージエパンメイを生みました。
 ここから一族は三つの枝に別れたのです。
 これが穆族の長、幼、仲三系の由来であります。


 この時、穆族はリンで起こってからすでに百年余りが過ぎていました。
 瞬く間に、幼系では更に三代が過ぎ、総督ロンツァチャゲンの父チューファンナの代となりました。
 この男もまた三人の妃を娶りました。

 ロンツァチャゲンの母は絨妃。
 葛妃の息子はユージエ。この勇士は北方のホル王と戦いホルの陣で戦死しました。
 穆妃の生んだ子が即ち、天が神の子のために選んだ人間界の父・センロンです。

 この時、この一代の中で最も年長のロンツァチャゲンはすでに妻を娶り子供もおりました。
 総督の妻メドザシツォは三男一女を生んだのです。

 センロンはといえば、天の思し召しで龍の娘メドナズを娶る前に、東方の伽国から漢の娘を連れ帰り、ギャツァシアガという息子がおりました。
 ギャツァシアガには、呪術に通じダロン部の長官を任じる叔父トトンがいました。


 ギャツァは生まれながらに心が真っ直ぐで勇敢、英雄の相を備えていました。
 一か月の時すでに、草原の一歳の子供よりもずっと大きかったとか。



 さあ、若者よ、前口上はこれですべて。
 本編はもうすでに始まっている!