物語 放擲 その3
花が開き、今神の子は妖魔の幻術と戦っているのだ、と人々に告げていた。
だが、人々は許そうとはしなかった。
彼らの中の聡明な人物が言った。
「妖術が幻の世界を作ったのだとしても、その世界で繰り広げられた冷酷と残忍は真実ではないか」
さらに、人々がジョルに悔い改める機会を与えようとした時、神の子は悔い改めようとしなかった。
その時、リンの人々の智力はまだ愚かで混沌とした世界に深く沈んでいたので、誰かが一言このように理に適ったことを言えば、賛同の声を引き起こしてしまうのだった。
勇敢で智慧に長けたギャツァでさえ、これを聞いて、一方ではこの言葉は自分の弟に対して不公平だと思いながら、反論する言葉が見つからなかった。老総督もやはり、反論する言葉が見つからなかった。
あの一言を口にしたのはジョルの叔父、トトンだった。
大きな氷河がゴーンと言う音と共に崩れ落ちて来た。ジョルの体は立ち昇る氷の霧の中に消えた。
この時、取り囲んでいた群衆はジョルが消えたことに心からの喜びの声を挙げた。
テントの入り口で息子の服を作っていた母メドナズは、心臓を突き刺されたように胸元を抑え、かがみこんだ。
ジョルは神の力に守られ、氷河は頭の上で砕け、彼をよけて落ちて行った。
霧が晴れた後、空はあっという間に明るく澄み、ジョルは体を振るわせて群衆の前に姿を現し、告げた。
「妖魔は空中や地面から来ることが出来なかったのだ。そこで水の中に道を作った。だが、このジョルが、氷河の下を通る道を塞いでやったぞ」
みなが半信半疑でいると、トトンがジョルに向かって言い放った。
嘘だ!
するとたくさんの声があちこちで沸き上がった。
嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!
トトンはまた言った。
「可愛い甥よ。幻覚で人々の目をごまかしてはいけないよ」
山の斜面でも谷間でも人々は更に声を合わせて叫んだ。
幻覚! 幻覚! 幻覚! 幻覚!
大勢の声が一つになった叫びの中、そこに含まれた怒りには、抵抗しがたい力があった。
その時人々は見た。神の子の聡明で美しい顔つきが、醜く変わっていくのを。
まず顔色が、そして輪郭と目鼻立ちが、そして最後にすらりとした姿も縮んでいった。
神の子ジョルは人々の前に醜い姿を現した。
人々は勝った。世を欺く者が本来の姿を現したのだ。そこで人々はまた声をそろえて高く叫んだ。
本性が見えたぞ! 本性が見えたぞ! 本性が見えたぞ!
それはちょうど神の子が天から人の世に降って六年目の日だった。
この時、母は息子のために新しい毛皮の上着を縫っていた。手の中にある上等の皮の毛が抜け落ち、いくつものまだらが出来、風よけ帽の前には二つの奇妙な角まで現われた。
メドナズは空を見上げた。
がらんとした青があるだけだった。青い色の下には緑に覆われた山々が遥か彼方まで続いていた。
メドナズは空に向かって叫ぼうとした。だが、その声は胸の隙間から沸き上がり、のどもとで止められた。音ではなく、血の塊だった。
彼女は草を抜き取り、根元深くに血の塊りを埋めた。
母として、息子に対する悲しみを誰にも見せたくなかった。天にさえ見せたくなかった。
トトンは手を振り上げ、神通力を使って、自分の声をリンのすべての角にいる人々にまで聞かせた。
「この子は天が降した神の子と言われているが、我々が見たのはただの残虐な殺し屋だ」
花が開き、今神の子は妖魔の幻術と戦っているのだ、と人々に告げていた。
だが、人々は許そうとはしなかった。
彼らの中の聡明な人物が言った。
「妖術が幻の世界を作ったのだとしても、その世界で繰り広げられた冷酷と残忍は真実ではないか」
さらに、人々がジョルに悔い改める機会を与えようとした時、神の子は悔い改めようとしなかった。
その時、リンの人々の智力はまだ愚かで混沌とした世界に深く沈んでいたので、誰かが一言このように理に適ったことを言えば、賛同の声を引き起こしてしまうのだった。
勇敢で智慧に長けたギャツァでさえ、これを聞いて、一方ではこの言葉は自分の弟に対して不公平だと思いながら、反論する言葉が見つからなかった。老総督もやはり、反論する言葉が見つからなかった。
あの一言を口にしたのはジョルの叔父、トトンだった。
大きな氷河がゴーンと言う音と共に崩れ落ちて来た。ジョルの体は立ち昇る氷の霧の中に消えた。
この時、取り囲んでいた群衆はジョルが消えたことに心からの喜びの声を挙げた。
テントの入り口で息子の服を作っていた母メドナズは、心臓を突き刺されたように胸元を抑え、かがみこんだ。
ジョルは神の力に守られ、氷河は頭の上で砕け、彼をよけて落ちて行った。
霧が晴れた後、空はあっという間に明るく澄み、ジョルは体を振るわせて群衆の前に姿を現し、告げた。
「妖魔は空中や地面から来ることが出来なかったのだ。そこで水の中に道を作った。だが、このジョルが、氷河の下を通る道を塞いでやったぞ」
みなが半信半疑でいると、トトンがジョルに向かって言い放った。
嘘だ!
するとたくさんの声があちこちで沸き上がった。
嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!
トトンはまた言った。
「可愛い甥よ。幻覚で人々の目をごまかしてはいけないよ」
山の斜面でも谷間でも人々は更に声を合わせて叫んだ。
幻覚! 幻覚! 幻覚! 幻覚!
大勢の声が一つになった叫びの中、そこに含まれた怒りには、抵抗しがたい力があった。
その時人々は見た。神の子の聡明で美しい顔つきが、醜く変わっていくのを。
まず顔色が、そして輪郭と目鼻立ちが、そして最後にすらりとした姿も縮んでいった。
神の子ジョルは人々の前に醜い姿を現した。
人々は勝った。世を欺く者が本来の姿を現したのだ。そこで人々はまた声をそろえて高く叫んだ。
本性が見えたぞ! 本性が見えたぞ! 本性が見えたぞ!
それはちょうど神の子が天から人の世に降って六年目の日だった。
この時、母は息子のために新しい毛皮の上着を縫っていた。手の中にある上等の皮の毛が抜け落ち、いくつものまだらが出来、風よけ帽の前には二つの奇妙な角まで現われた。
メドナズは空を見上げた。
がらんとした青があるだけだった。青い色の下には緑に覆われた山々が遥か彼方まで続いていた。
メドナズは空に向かって叫ぼうとした。だが、その声は胸の隙間から沸き上がり、のどもとで止められた。音ではなく、血の塊だった。
彼女は草を抜き取り、根元深くに血の塊りを埋めた。
母として、息子に対する悲しみを誰にも見せたくなかった。天にさえ見せたくなかった。
トトンは手を振り上げ、神通力を使って、自分の声をリンのすべての角にいる人々にまで聞かせた。
「この子は天が降した神の子と言われているが、我々が見たのはただの残虐な殺し屋だ」