物語:黄河湾 その2
次の日早く、ジョルは首領たちを率いて高い丘に登った。
ジョルは意気揚々と、目の前の山や河を指して言った。
「さあ、これが黄河です。ここには、英雄の馳せ回る道があり、民が交易する市があり、牛や羊を放牧する草原があります。
石の税で築いた砦は敬愛する総督に捧げましょう。
議事庁は堂々と広く、号令を下し私たちを招集する時は、老総督よ、高い塔から声は自ずと遠くまで届くでしょう」
老総督は言った。
「あれはお前の砦だ。お前が我々の王だ」
下にいる者たちの間に、すぐさまそれに応える声が湧き起こった。
「ジョル王!ジョル王!」
ジョルの父が大声で叫んだ。
「彼はジョルではない。ケサルだ!」
人々は今はじめて気付いたかのように叫んだ。
「ケサル王!ケサル王!」
ケサルはその様子を見て、急いで神通力を使い、喜び叫ぶ者たちが再び巨大な叫び声を上げられないようにした。
それから、微かに力を込めて、老総督を砦の中に導き、虎の皮を敷き、ひじ掛けに龍の頭を彫った黄金を施した宝座へと連れて行き、言った。
「総督、ここにお座りください」
老総督はひたすら抗った。
「神のご意志は既に示されているのだ。お前こそ我々の王だ」
トトンも前に進み出て言った。
「総督の言うとおりだ。お前こそ我々の王にふさわしい。
早く座って各の新しい居場所をすぐさま配分するのだ。
いつまでもお前の砦で美食に預かっているのは我々も心苦しいからな」。
「トトン叔父は、農夫たちに少しでも早く種を植える場所を与え、牧人たちに少しでも早く牛や羊を彼ら自身の牧場に追って行かせたいようだ」
「さすがワシの甥だ。ワシは老総督のように遠慮深くはなれなくてな。心優しい甥よ、地勢には高低があり、土壌には良し悪しがある。我々ダロン部洛はリンでずっと河のほとりの良い場所を占めていた」
老総督はその言葉を聞いて、何度もため息をついた。
「一人一人の心が自らの過ちを恥じている訳ではないのか。
誰もが悔い改め善をなそうとしている訳ではないのか」
トトンは面白くなかった。
「老総督よ、お前はいつもそのようにきれい事ばかり言うのだな。それはお前が玉座でお高くとまっているからだ。
ワシは民に代わって彼らの暮らしと幸福に心を砕いているのだ。仕方のないことではあるが。だからワシの言葉は聞き苦しくなるほかないのだ」
トトンはジョルを傍らに引き寄せて言った。
「リンの民は不公平な総督にもはや我慢ならないようだ。お前はリンにこのように大きな恩恵をもたらしたのだ。
ワシらの王になってくれ」
彼はまたジョルの袖口を引いて言った。
「愛する甥よ、お前が王にならないのは怖いからではないか」
「いいえ、怖くありません」
「お前は、自分が怖がっていることを分かっていないのだ。子供っぽい知恵では、海のように深い策略をめぐらす者たちに立ち向かえないと恐れているのだ。」
「トトン叔父よ、もうやめましょう」
「何を恐れているのだ。恐れることはないぞ」
「恐れていません。心がとても疲れているのです」
「それが恐れているということだ」
「そうです。おっしゃるとおりです。トトン叔父よ。子供のような単純な知恵では海のような策略をめぐらす方々には立ち向かえない、と恐れているのです」
トトンは甥が自分を皮肉っているのを分かっていたが、どうしても諦める訳にはいかず、慇懃に言った。
「のろまな総督を宝座から降ろせば、ワシがお前を助けてやろう。総督になってやろう。
お前は妖魔を倒して遊んでいればそれでいい。面倒なことはすべてワシがやってやる」
これらの話は皆に聞こえていた。
老総督は大声で言った。
「ジョルが王になるのであれば、わしは総督を続けよう」
ダロンの民はトトンの側につき、その他のは総督の側につき、争いは決着がつかなかった。
争う内に、誰もがジョルのことをどこかへ忘れてしまった。
ジョルは言った。
「争いをやめるのだ!」
だがその声は弱々しかった。
人々の声はいよいよ熱を帯び、いよいよ高くなった。
ジョルは、大量の渡り鳥が豊富な餌を求めて湖上に降りた時の耳をつんざくようなかまびすしさを思い出だした。
ジョルは城塞から去った。
ジョルの寂しげな様子を見て、母メドナズの心は耐え難いほどの痛みを感じた。
「あの人たちはお前の砦が欲しいのだろうか」
「母さん、なぜ母さんは龍の宮殿を去ったのですか、なぜ私をこの人の世に生んだのですか」
それは神にお聞きなさい。そう言いたかった。
だがメドナズは息子をより悲しませる言葉を口には出来なかった」
次の日早く、ジョルは首領たちを率いて高い丘に登った。
ジョルは意気揚々と、目の前の山や河を指して言った。
「さあ、これが黄河です。ここには、英雄の馳せ回る道があり、民が交易する市があり、牛や羊を放牧する草原があります。
石の税で築いた砦は敬愛する総督に捧げましょう。
議事庁は堂々と広く、号令を下し私たちを招集する時は、老総督よ、高い塔から声は自ずと遠くまで届くでしょう」
老総督は言った。
「あれはお前の砦だ。お前が我々の王だ」
下にいる者たちの間に、すぐさまそれに応える声が湧き起こった。
「ジョル王!ジョル王!」
ジョルの父が大声で叫んだ。
「彼はジョルではない。ケサルだ!」
人々は今はじめて気付いたかのように叫んだ。
「ケサル王!ケサル王!」
ケサルはその様子を見て、急いで神通力を使い、喜び叫ぶ者たちが再び巨大な叫び声を上げられないようにした。
それから、微かに力を込めて、老総督を砦の中に導き、虎の皮を敷き、ひじ掛けに龍の頭を彫った黄金を施した宝座へと連れて行き、言った。
「総督、ここにお座りください」
老総督はひたすら抗った。
「神のご意志は既に示されているのだ。お前こそ我々の王だ」
トトンも前に進み出て言った。
「総督の言うとおりだ。お前こそ我々の王にふさわしい。
早く座って各の新しい居場所をすぐさま配分するのだ。
いつまでもお前の砦で美食に預かっているのは我々も心苦しいからな」。
「トトン叔父は、農夫たちに少しでも早く種を植える場所を与え、牧人たちに少しでも早く牛や羊を彼ら自身の牧場に追って行かせたいようだ」
「さすがワシの甥だ。ワシは老総督のように遠慮深くはなれなくてな。心優しい甥よ、地勢には高低があり、土壌には良し悪しがある。我々ダロン部洛はリンでずっと河のほとりの良い場所を占めていた」
老総督はその言葉を聞いて、何度もため息をついた。
「一人一人の心が自らの過ちを恥じている訳ではないのか。
誰もが悔い改め善をなそうとしている訳ではないのか」
トトンは面白くなかった。
「老総督よ、お前はいつもそのようにきれい事ばかり言うのだな。それはお前が玉座でお高くとまっているからだ。
ワシは民に代わって彼らの暮らしと幸福に心を砕いているのだ。仕方のないことではあるが。だからワシの言葉は聞き苦しくなるほかないのだ」
トトンはジョルを傍らに引き寄せて言った。
「リンの民は不公平な総督にもはや我慢ならないようだ。お前はリンにこのように大きな恩恵をもたらしたのだ。
ワシらの王になってくれ」
彼はまたジョルの袖口を引いて言った。
「愛する甥よ、お前が王にならないのは怖いからではないか」
「いいえ、怖くありません」
「お前は、自分が怖がっていることを分かっていないのだ。子供っぽい知恵では、海のように深い策略をめぐらす者たちに立ち向かえないと恐れているのだ。」
「トトン叔父よ、もうやめましょう」
「何を恐れているのだ。恐れることはないぞ」
「恐れていません。心がとても疲れているのです」
「それが恐れているということだ」
「そうです。おっしゃるとおりです。トトン叔父よ。子供のような単純な知恵では海のような策略をめぐらす方々には立ち向かえない、と恐れているのです」
トトンは甥が自分を皮肉っているのを分かっていたが、どうしても諦める訳にはいかず、慇懃に言った。
「のろまな総督を宝座から降ろせば、ワシがお前を助けてやろう。総督になってやろう。
お前は妖魔を倒して遊んでいればそれでいい。面倒なことはすべてワシがやってやる」
これらの話は皆に聞こえていた。
老総督は大声で言った。
「ジョルが王になるのであれば、わしは総督を続けよう」
ダロンの民はトトンの側につき、その他のは総督の側につき、争いは決着がつかなかった。
争う内に、誰もがジョルのことをどこかへ忘れてしまった。
ジョルは言った。
「争いをやめるのだ!」
だがその声は弱々しかった。
人々の声はいよいよ熱を帯び、いよいよ高くなった。
ジョルは、大量の渡り鳥が豊富な餌を求めて湖上に降りた時の耳をつんざくようなかまびすしさを思い出だした。
ジョルは城塞から去った。
ジョルの寂しげな様子を見て、母メドナズの心は耐え難いほどの痛みを感じた。
「あの人たちはお前の砦が欲しいのだろうか」
「母さん、なぜ母さんは龍の宮殿を去ったのですか、なぜ私をこの人の世に生んだのですか」
それは神にお聞きなさい。そう言いたかった。
だがメドナズは息子をより悲しませる言葉を口には出来なかった」