黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

めまい

2013年10月29日 15時45分02秒 | ファンタジー

 一昨日の夜明け前、目が覚めたので、トイレに行こうとベッドから立ち上がったとき、頭がグルグルグルと何度も大きな回転を描いた。突然、私の脳裏に、以前見たアメリカ映画の一場面が浮かんだ。その映画は、ベトナム戦争から帰還し、今は郵便配達をしている男の物語で、戦地の兵士たちの異常行動を経験した主人公は、それが人体実験によって引き起こされたのではないかと、真相を追求する内容だった。映画の中に、主人公の動きを阻止しようとする者の頭が、振り子のように烈しく振動する場面があった。私は、めまいに打ちひしがれ、今にも吐きそうになりながら、その一場面を思い出し、いよいよ気持ちが悪くなるのだった。
 頭の暴走に耐えかねた私は、たまらずベッドに倒れ込むと、症状は数秒くらいで治まった。こんなことは初めての経験だった。平静になってから、回転したのは私でなく、私を包む環境自体のせいだと思おうとしたが、常識的な思惟がその考えを押し殺した。もう少し続いていたら、ベッドの周辺は嘔吐物で悲惨な事態になっていただろう。そのまましばらく横になって明るくなるのを待った。
 次に目が開いたのは、目覚まし時計のベルがいつもの起床時間に鳴ったときだ。さっきのように飛び起きて、私の意識がまた異次元の世界へ行ってしまってはかなわないので、今度は慎重に体を横に傾けてから起き上がった。しかし、めまいは起きた。こうなると、私の体のどこかで異変が起きている事実を認めるしかなかった。先週に引き続いて会社を休み、八年前に突発性難聴を発症した際、最初にかかった病院で診察を受けた。原因は血行不良、もしくは三半規管の付け根の袋に入っている耳石の破損のどちらかであろう、二ヶ月は辛抱せよとのこと。病名は、良性の発作性の何とかめまい症云々だったと思うが、細部まで記憶していない。治るのなら病名などどうでもよいのだ。
 映画の主人公は、人体実験が行われた証拠を突き止めることができた。その実験とは、人間を殺人兵器にする薬品の効き目を確かめるものだった。不幸なことに、彼は、実験台に選ばれた部隊に属していて、ベトナムのジャングルでの烈しい同士討ちに遭遇した。映画は、主人公が野戦病院のテントの中で、微笑みを浮かべて事切れる場面で終わる。映画鑑賞者は、そこでようやく気づくのだ。彼は、魂となって国に帰還し、真相を追求する中で様々な葛藤を経験し、最期に家族や戦友たちに見守られながら、安らかな眠りについたということを。(2013.10.29)
コメント
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