黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

二匹の子犬

2013年07月09日 10時31分42秒 | ファンタジー

 つい最近思い出した昔の出来事。大学の寮にいたとき、子犬が二匹、寮の中へ侵入したことがある。寮生が連れてきたのか、部外者の仕業なのかわからない。ある日、私は、廊下の端に初めて一匹の子犬を見つけ、えっどうしたの、というような声を上げたのだと思う。彼は一目散に十メートルもの長い廊下を駈けてきて、足元にまつわりついた。私が室内に入ると、当然彼は付いてきて、落ち着きなく走り回った。腹を減らしているかと思い、私は自分の晩飯用のご飯を少し、皿に盛って床に置いた。彼は匂いを嗅いだだけ、食べようとしない。ふと、魚の缶詰があることに気づき、缶に穴を開けてまだ十分暖かいご飯に汁をかけると、彼は息せき切って食べ尽くした。そして、落ち着いた様子で室内を物色し始めた。
 室内の半分は、両壁に向かって机が二つずつ据え付けられた居間兼学習しない勉強部屋。もう半分のスペースには、二段ベッドが二台、仕切の壁に背中合わせにくっついていた。子犬はベッド室の奥の暗がりを見つけると、ずっと奥へ入っていって、こっちを向いて腰を落とした。そこは掃除がいつ行われたか記憶にないくらい、埃で酷い状態だった。何か音がすると思ったら、子犬の尻の辺りから液体が流れてきた。彼は気持ちよさそうに小便をしていた。そこなら汚しても大丈夫と思ったのだろう。そう言えば、とのも、家に来て初めての夜、台所の隅っこの暗がりで長い小便をした。
 もう一匹の子犬とも寮内で遭遇したが、彼は寮生に懐かなかった。彼は食べ物をもらえたのだろうか。その後も、二匹を何度か見た。しかし、彼らの姿が寮内に見え隠れしていたのは長い期間ではなかったと思う。誰かに引き取られたのか、寮を管理する学生課の職員に連れられていったのか。彼らに関わった心優しい寮生がいなかったとは言えないが、飽きっぽい寮生たちには彼らを育てる能力がなかったのだろう。私の意識から彼らの姿はすぐ消えた。
 ところが、数日前、何がきっかけだったかはっきりしないが、突然二匹の姿が私の古びてこわばった意識を震わせて、目の前に飛び出してきた。すると、学生寮での出会いから四十年あまりの間に、一度か二度、彼らの懐かしい姿を思い浮かべたことがあるような気がした。記憶を取り戻したというのでなく、無意識に、夢に見たという感じで。それとも、私のすぐ傍らに永らく生きていた動物たちの中に、二匹の子犬に似た姿を見ていたのだろうか。
 最近、不思議に思うのは、ヒトは別として、動物たちが、昔からの知り合いのような親しげな顔で近寄ってくること。確かどこかで会ったことがあるような……(2013.7.8)
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