BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

追 走

2018年11月27日 | 古本
沢木さんの〔キャパ〕シリーズを見つけた.月刊誌「文藝春秋」に長い間連載されたものを文庫化。
キャパの撮った戦争のあるいは銃後の世界をそれこそ世界中に訪ねた。そしてキャパが撮った写真と
できるだけ同じアングルを探し、沢木さんも捕えた。もちろんほぼ50年ほどの隔たりを経て、大き
く変わった現場もあり、ほぼ同じもありだ。しかしそこには確実な年月を隔てていることが分かる。
僅かな背景を手掛かりに、偶然も必然もすべて沢木さんに味方した。もちろん文章が違和感を消し去
ったのもあるが、感服せざるを得ない。
あの一番有名な「崩れ落ちる兵士」はアメリカ「マグナム」社において、キャパが撮ったものである
ことを付記させられていることが面白い。沢木さんの中ではもうそれは明らかであるとして、敢えて
反論を封印した。その詳しい経緯はアタシが読んだキャパに詳しいのでここでは省略する。

 「キャパへの追走」 著者 沢木 耕太郎  文春文庫 定価800円+税
  ( 2017年10月10日 第1刷 )

いねむり

2018年11月23日 | 古本
 色川 武大・阿佐田 哲也 1929年3月28日→1989年4月10日
この小説、実につまらない。もともと伊集院 静が好きでないせいもある。だいたい人物を伏字とイニシャルで、
色川 武大・阿佐田 哲也氏さえ※印で表す。そんな失礼があるのか、してどんな弊害があるというのか。その後
〔先生〕といつも表記するのだが、行動メモを少し丁寧に文章化したものにしか過ぎない。ああなんという駄作。
こんなのをホメる書店員や文芸批評家の声を帯に集めてある。均一棚に在ったから読んだものの、半額でも買わ
なかった。静先生、最近「〇〇の力」など何やら書きまくっているようだが、いずれもアタシには反吐が出る様
なタイトルだ。いねむりしながら読んだが、店先の平台でたとえ10円で売っていても、もう二度と読まないだ
ろう。

 「いねむり先生」 著者 伊集院 静  集英社 定価1680円
  ( 2011年5月18日 第3刷発行 )



黒のカラス

2018年11月20日 | 古本
馴染みのBOOK OFFへ行くと均一棚にずばり「海辺のカフカ」が在った。それも下巻だけで上巻は無い。
どうして下巻がここに在り、上巻だけが博物館に在ったのかもう分からない。勿論偶然的なものだろうが、
こうしておかしなこともあるのだ。そして手に入ったのだからと読み始めると、なんだかよく分からんし、
何の記憶も湧かない。つまりアタシは上巻を読んでいたのか、怪しくなった。もしかして下巻が揃うまでは
手を出さなかったのかも知れない。
それにしても複雑な小説だ。よく知るギリシア悲劇と日本の古典文学の融合小説。どうにもアタシはこの
タイプが苦手だ。そんなに厚くもなかったので油断したが429ページもある。紙が辞典ほどに薄い(笑)
カフカとはチェコ語で〔子ガラス〕のことらしい。つまりカラスだ。
ともあれこれで〔黒のインパラ〕さんに手渡すことができる。どうしてこの手が好きなのかも不思議なことだが。

 「海辺のカフカ」 著者 村上 春樹  新潮社 定価1600円+税
  ( 2002年9月25日 3刷 )

元映写技師

2018年11月16日 | 古本
月刊雑誌・小説新潮に昨年連載されていた10本の連作短編をまとめた単行本。桜木さんホントに上手くて舌を巻く。
日常使う国語辞典で事足る語彙の中で、難しい単語などないのにこれほどの表現ができ、それを捻り紡ぎだす。
夕方読みだして深夜に読み終えた。後半2編はやや緩慢で眠くて記憶をなくしたが、翌日読みなおした。

ある1組の言わば二人暮らしを交互に事情を連ねた。女は30半ば、男は特に記述が無かったが同じくらいだろう。
女は看護師、男が驚いたことに元映写技師で今はフリーで月に何回かのフィルム上映に地方などから声がかかる。して
札幌の大通リにある映画資料などを展示しているNPO法人「北の映画館」で、週に1日2日留守番ボランティアを
している。どこが驚きかというと、今年に知り合った〔M〕さんがモデルになったのではというくらい似た人物設定だ。
ひよっとして桜木さんから取材など受けたのかもと想起させる。(今度会ったら直接聞いてみたいが。笑)
桜木さんの登場人物の職業描写はややくどいきらいがあるが、今回もそれなりにリアルだ。映写室でのフィイルムの扱い、
映写機2台の交互上映や1本に繋いだターンテーブル式など、これらの所作は専門の知識や経験がないと表現できない。
そんな中、小説の男はシナリオを書いて応募などしているがモノにはならない。アタシの知る〔M〕さんも元映写技師で
いまは新聞に画の連載を持っている。どちらも表現行為をしていること、画とシナリオ、違いはその辺だけだ。そして
〔M〕さんも「北の映像ミュージアム」でボランティアをしているのだ。
ただアタシは〔M〕さんのプライベートな部分は何も知らない。
それにしてもホントに誰が桜木さんに35mmフィルム上映の状況や現場を教えたのか、その意味でも興味が尽きない。

 「ふたりぐらし」 著者 桜木 紫乃  新潮社 定価1450円+税
  ( 2018年7月30日 発行 )

酒呑み作家

2018年11月14日 | 古本
いつものJR北海道特急列車車内小冊子に書かれたエッセイをまとめたもの。そろそろ過去の内容に
重複する話が多くなってきているが、何回読んでも味わい深い。さすがにプロの書き手ではある。
小檜山さんの本は相当読んで持っているが、結構サイン本が多い。それも落款付きでだ。
同じ西区の西野より奥の平和地区に住んでいて、近くにはファンも多いのだろう。して近くの本屋さん
などでサイン会で売られ、BOOK OFFへと売られてしまう。それをこの地区にあるBOOK OFF
でアタシが買うのだからこの地域において多く読まれて、言わば地書地読で誠に合理的というべきか。
毎日酒を呑み、時にカラオケを歌い、1日1度は原稿用紙に向かうらしい。誠に健康的な生活、長生き
して書き続けてほしい。
 「人生という夢」 著者 小檜山 博  河出書房新社 定価1600円+税
  ( 2016年7月30日 初版発行 )

あの時の深夜

2018年11月13日 | 古本
札幌に戻った翌々日にいつものBOOK OFFへ行った。疲れているので単行棚だけに目を通した。
収穫は単行本で5冊、〆て2260円。文庫まで探す気力はなかった。

そんな中、中田美知子さんのがあった。別な棚にもあったので比べるとこれが安い。しかも帯付きだ
った。つまりは売れた証拠だ。18年6月末に出たばかり。だが売価が違う。当然安い方を手にした。
もう35年程前のことだ。彼女がHBCを辞してフリーのころだ。よくアタシが属していた会社の録音
スタジオに時々来てCMなど読んでいた。
ある日のいつものように遅い帰り道だった。信号待ちで止まると横にライトエース的1BOXカーが止
まっていた。中をみると中田さんがハンドルを握っていた。そしてその中に3人の齢の近い幼子が座席
に立ったりしてはしゃいでた。中田さんはかまうことなく毅然としてハンドルを抱えていた。
その頃のアタシは夜目遠目がまだ問題なかった。だがなにかアタシはイケないものを見てしまった様な
気がして誰にも言わなかった。低く艶があり滑らかな喋りとはイメージがあまりにも違う。シングルマ
ザーとなっていた彼女には仕方のない深夜の帰宅だったに違いない。
その後中田さんはFM北海道に入り、常務取締役にまでなって退職された。あの時に見たお子達はもう
それぞれの道に進んで社会人になっているだろう。そのことの言及は特にこの本には書かれていない。
 「少女は、いまでも海の夢を見る」 著者 中田 美知子  亜璃西社 定価1500円+税
  ( 2018年6月30日 第1刷発行 )

十字架

2018年11月01日 | 新 刊
この本も再読だ。「キャパ その青春」「キャパ その死」「ロバート・キャパ写真集」の3冊を再読すると
出た直後に新刊で買った「キャパの十字架」も再読したくなった。(しかし沢木さんはタイトルの付け方がうまい)
前回〔CAPA〕で書いたこれはやらせ写真ではというアタシの推察は違っていて、どうやら偶然性によって
ゲルダ・タローが使っていたローライフレックスによって撮られたものではないか、という推論が正しいように
思える。それはキャパが使っていたライカの35mmフィルムサイズやゲルダ・タローの使っていたローライ
フレックスカメラのサイズなどの比較、さらにはキャパ自身が仕事仲間に「あれはゲルダが撮った」という意味
を言ったことにも伺える。サイズの大きいカメラはいかようにでもトリミングして横長のライカサイズにできる
のだ。ただそれも100パーセントそうだとの断言は出来ない。ゲルダは暴走戦車にひかれて死に、キャパも
あの「崩れ落ちる兵士」については多くを語らなかったようである。
沢木さんはその問題のスペインの地を調べ、ライカとローラィフレックスを持ち、あらゆる人脈を探し検証した。
当初その現場がスペインのセロ・ムリアーノではなくエスペホ地方であることによって、撃たれたとする兵士も
別人であることになった。これは写真界にとって重大な事件である。この本、世界中に翻訳出版されるべきだ。
キャパはその後も優れた〔戦争写真家〕であったことは疑いようがない。「崩れ落ちる兵士」という正に十字架
を背負い、地雷を踏んだのだ。
キャパより3歳年上だった〔ゲルダ・タロー〕は1937年7月26日、27歳の誕生日を迎える少し前の、
理不尽な戦死となった。

 「キャパの十字架」 著者 沢木 耕太郎  文藝春秋 定価1500円+税
  ( 2013年2月15日 第1刷発行 )