BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

ゲバラの生活記録

2021年08月31日 | 古本
<さて、一人の男の一年にみたない短時日の間の日記が、これほどまでに世界を騒がせたことはないだろう。その「日記」に、
重大な政治的・軍事的機密がもたらされているわけでもなく、また新しい理論が体系的に展開されているわけでもない。「日記」
そのものは、困難な条件のなかのゲリラ作戦についての淡々とした記録である。この「日記」が、感情をむきさいにした感想文
ではなく、客観的に克明に記されたゲリラ指導者の生活記録であることは、チェ・ゲバラの人物像が、一般に 想像されがちな
ラテンアメリカ気質にみちた激情的なボヘミアンふうの革命家というイメージとは異なって、冷静な統率力のある指導者であった
ことをしめしている。>〔ゲバラの日記〕より
アルゼンチンに生まれキューバ革命をなし、国立銀行総裁や初代工業相に就任するもフェデル・カストロ首相に別れの手紙を書き、
ボリビヤのゲリラ闘争へと進んだ。山岳地帯はジャングル、毒をもった蛇や獰猛な蚊や昆虫、また持病の〔ぜんそく〕という発作
にも悩まされた。何よりそこは政府軍の支配地でもある。
広範囲に散らばった貧しい農民も、必ずしも敵とも見方とも分からない。そんななか、1967年10月8日ボリビア軍に包囲され
ついに逮捕、翌9日死亡。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              チェ・ゲバラの言葉
「世界のどこであろうと不正が行われるたびに、あなたがこれにたいして怒りをもやすならば、われわれは同志なのです」
世界中の為政者よ、ゲバラの爪の垢を煎じて飲むがよい。
 「ゲバラの日記」 著者 チェ・ゲバラ  訳者・筆者 栗原人雄 斉藤 孝 中川文雄 宮嶋光男 向 一陽
  太平洋出版社 定価1200円 (1974年3月15日 第13刷発行 ) 

シャシン

2021年08月16日 | 古本
年輩の映画にかかわるお歴々には映画を〔シャシン〕という呼ぶ方が多い。アタシがバイトしていた札幌東映の映写技師さん達も
そうだった。よくフイルム倉庫に休憩しにきた時、今度のシャシンは何々だなどと話していた。映画業界には特別な隠語や言い方
が多い。それに慣れないと一人前扱いされなかった。
また今では例外を除いてほとんど同時録音だが、フィルム撮影時代が多かった時代はそれを〔シンクロ〕と言った。同時録音カメラ
を使うか、ナグラなどの高性能テープレコーダーを使う。その時カメラから出るパルスをレコーダーにも録音してシンクロさせる。
稀に何かの事情で〔アフレコ〕(アフターレコーディングのこと)のなる場合がある。屋外でOKテークにサイレンの音が入ってしま
ったとか、極端に騒音の多い所でのセリフなどは音声さん泣かせだ。ちなみに映像業界では音の収録スタッフを〔音声〕さんという事
がほとんど、これに対してホールなど屋内の音スタッフは〔音響〕さんという。屋外でのライブなどは〔PA〕さんいというケースが
多い。そのほか映像業界独特の言い回しや隠語があるが、それを語るときりがない。

さて後藤 浩滋さんは1960年代から70年代は盛んに、また80年90年代までも東映のプロデューサーとしていわゆるシャシンを
プロデューサーとして仕切った人物。知らなかったが女優〔藤 純子〕さんの実父でもある。任侠映画を多く手掛けたがヤクザの杯は受け
なかったもののそのスジとの付き合いは多い。クレジットの名が出なかったシャシンもそれなりにあるのだと。
その人物を山根 貞男さんが聞き書きとして1冊にした。写真も多く、またアタシらには懐かしい役者の名も多く出ている。アタシは
任侠映画は特別好きでもなく、そんなには観ていないがパターンは大概決まっている。まあ呆れるほどの本数を年間量産していた時代
の古い名プロデューサー。それらの逸話を読むのも一興かも知れん。
 「任侠映画伝」 著者 後藤 浩滋・山根 貞男  講談社 定価2000円+税
  ( 1998年2月1日 第1刷発行 )

シベリア

2021年08月02日 | 古本
シベリア抑留のことを書いた本はあまたある。しかしこの本は実父の話をまずは他人に聞き取らせ、著者が整理してまとめ、
父に確認を取るという手法を行った。思い入れや他の感情を抑え、極めて冷静に推敲したものだ。
カバーのコピーにはこれ以上ないというように、一人の軌跡全体を印した文章になっている。以下その文章から。
<とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の生活模様がよみがえる。戦争とは、平和とは、高度
成長とは、いったい何だったのか。戦争体験は人々をどのように変えたのか。著者が自らの父・謙二(1925-)の人生を
通して、「生きられた20世紀の歴史」を描き出す。>
アタシの父は大正元年(1911年)の生まれだった。徴兵検査があったが不合格だった。片腕が肩より上に上がらず、それが
理由だったと何度か聞いた事がある。そのおかげでアタシが戦後に生まれ、父も人を殺さず殺されもせず、抑留などという経験
をせずにすんだ。その後の荒れ地での百姓という苦労はあったにせよ、アタシも戦争というバカな手柄話を聴かずにすんだ。
毎年8月も半ばになると、あの先の大戦戦争の検証番組などが放送される。NHKも埒も無い朝ドラや、戦国時代のアホな武将の
大枚をかけた番組などは止め、この本の主人公の庶民生活史などの一生をドラマ化したらどうか。これ程正確で具体的な人生史
の原作はほかには無いだろう。
今年の8月はコロナやオリンピック関係の番組で、忌まわしい戦争の番組などは無いだろう。もうすぐ広島や長崎に原爆が投下
された日が近づく。マラソンはそれらをつぶすだろう。
 「生きて帰ってきた男ーある日本兵の戦争と戦後」 著者 小熊 英二  岩波新書 定価940円+税
  ( 2017年5月8日 第11刷発行 ) ※初刊は2015年6月、その後11刷も重刷されたことに感謝だ。