BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

遅すぎる

2017年07月26日 | 古本
佐藤 正午さんの直木賞は遅すぎる。1984年の「永遠の1/2」から年1冊くらいなペースだが確実に面白い本
を書き続けているのだ。1980年代に書いたものを芥川賞でもいいし、90年代前期に書いたのを直木賞でもいい。
最初のすばる文学新人賞を1/2で採ってから、賞らしいニュースは聞かなかった。それは長崎県の佐世保で地味に
一人暮らしをしながら書き続けている作家への、中央文壇選考委員のマヌケぶりを物語るものだ。
ともかくほぼ全冊を揃え読んでいる正午ファンのアタシには、初候補1本で仕留めたんだからまあいいとするか。
真面目に古本列伝を追及するアタシは、もう少しの我慢で手に入れようぞ! 新刊を買って読んだ方、早くして
下さい(笑) 写真は多分ここにある「佐藤 正午」本のほんの1/2か。

真 の 実

2017年07月14日 | 古本
札幌へ戻った空きにBOOK OFFへ。そう安くはなってなかったが、久しく行ってなかったので3冊を。
椎名さんの不眠話はこれまで何度も読んできたが、こんな風にまとめたものは初めてか。月刊 新潮45の
連載をちょいと新書にはいつもの手口だが、不眠症仲間としてはつい同情した(笑)
 「ぼくは眠れない」 著者 椎名 誠  新潮新書 定価720円+税
  ( 2014年11月20日 発行 )

北海タイムスの整理部にいたダチの話の、内実は近いものがある。勿論小説ゆえデホルメや辻褄の合って
無い所には目をつぶろう。金玉コースはアタシも一時期よく行っていた者として笑ってしまった。
ヤキトリ金富士の親父は頑固で、アタシらの要望には応えない。安いんだから頼んだものを出されたら黙
って喰えというスタンス。カメラマン仲間のO氏はそれで切れてケンカし、出入り禁止となった。
増田さんがタイムスに居たことは知らなかった。時期としてはダチが見切りをつけて去った後だ。段々と
厳しくなっていたのですね。
ある日、タイムス朝刊の一面、でかでかと「本日をもって休刊」という社告には驚いた。せめて最後の
新聞をと思い1部を買いに走った。それはまだアタシの本棚の奥に多分、仕舞われている。残念だった。
 「北海タイムス物語」 著者 増田 俊也  新潮社 定価1700円+税
  ( 2017年4月20日 発行 )

原 節子を美人女優と思ったことはアタシは一度もない。ギョロメ目に大きすぎる鼻が目立つ。
小津安二郎のローアングルや切り返しのレンズのミリ数が、生理的に好かない。
例えば近くに座った2人の会話の切り返えしが、なんであんなワイドサイズになるのか気味が悪い。
また小津の「東京物語」などいまではあまりにも話が古すぎないか。
ただ原さんはお気の毒な時代の女優さんだった。撮影においてはフィルムの感度は低く、レンズだって
今ほどのキレがない。それゆえUPだって強烈なライトを照てられただろう。ライトにトレペやパラなど
挟んだのだろうか。また白カポックや黒カポックで陰影をつけるなどの技術はない時代だ。どんなに目を
傷めただろうか、白内障になって片目をやられたのは同情に堪えない。
まあしかしよくぞ95才まで生きた。女優人生を退場して、よりはるかに長い人生を遁世していたのだ。
そして作者の石井妙子さんにもよくぞ粘り強く、真の実を書いてくれたと拍手を送りたい。
 「原節子の真実」 著者 石井妙子  新潮社 定価1600円+税
  ( 2016年8月20日 5刷 )

回路図と騎士団長

2017年07月02日 | 古本
我々が昔使っていた放送機材のカメラやVTRは周辺機材も含めると軽く一千万を超える。
だからというワケでもないだろうが分厚い大きなメンテナンスマニアルとオペレーション
マニアルが2部ついて来た。回路図を見ると容量値の数字が示され、抵抗は主に直流系の
電流を流し、コンデンサーは電流を蓄え平均化し交流系の電流を流す。時にコイルを通し
複雑化され何本もの配線によってトランジスターやICの集積回路へと繋がる。それが
入力と出力おいて安定した役目を維持する。それら何万点も及ぶ1つ1つの部品や回路が
構成され、1つの目的のある電子機材となる。

村上春樹さんの小説を読むと、アタシは小説がそれらと同じ回路図に見えてしょうがない。
どんな小さな部品もどんなに短い言葉も同じように役目があり、複雑なる展開をみせ巧妙な
伏線がはられている。たくさんでてくるクラシックの作曲家や楽曲名も、作品のあるいは
映像の品質を確保するがため配置されている。無駄な部品は1個たりともなくすき間もない。
(登場人物の服装表現は、アタシにはほとんど解からないが。笑)
さかんに使われる比喩もメタファーも、完全なデジタル回路がないのと同じだ。
時に蛇足や破綻があるにせよ、商品として出荷されたパソコンと同じくバグがあっても、
それは読み手あるいは使い手によって修復され直されていく。
して今回は第1部と第2部に分かれ1000ページを超える。第2部の巻末には「第2部
終わり」と記されている。これは「1Q84」と同じように第3部もあるよと読み取れ、
作者の隠れコマンドなのか。
電子機材もバァージョンUPされてより高性能になって使い勝手も良くなって出てくるように。
そして我々は半永久的にそれを買わされて使い、又は読み続けるに違いない。

 「騎士団長殺し」 著者 村上 春樹  新潮社 定価1部2部とも1800円+税
  ( 2017年2月25日 発行 )
 ※新刊だがBOOK OFFで買ったもので古本の部です。