BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

収容所の歯科医

2021年01月24日 | 古本
ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」が有名だが、このベンジャミン・ジェイコブスの「アウシュビッツの歯科医」もなかなかのものだ。
ヴィクトールは心理学者だったがベンジャミンは歯科医だった。が歯科医と言っても歯学部の大学の1年生だった。多少の小さなケースに
入る歯科治療道具を持っていたにすぎないが、もちろん実習などの教育は受けていた。ナチスにつかまった際に母親がその小さなケースを
持って行けと強制した。そしてその小さなケースに入った治療道具が彼の命を救った。つまり収容所のアウシュビッツでは歯科医として、
ナチスの連中にも重宝された。のちに一緒に収容されていた父や兄にも多少の恩恵はうけたが、基本的な待遇は凄惨を極める。集められて
いた部屋から死人の金歯などを抜いて集めさせられた。それを加工し治療に使わされた。その場面がもし映画だったらみんな目を背けるだろう。
だがこれは映画化は無理だろう。骨と皮だけになった収容者の大勢をどうするのか。ニュース歴史映画などでその様子は見ているのだ。
ところでだ、この北海道でもこれに似た場面は枚挙にいとまがない。囚人などでの道路や開墾の強制労働、朝鮮人や中国人をタコ部屋に
押し込め、栄養とも言えない食べ物で炭鉱などに長い時間を働かせた。人種差別や優性思想はつい先年、戦後まで続いていたのはドイツ、
ヨーロッパ、この日本も同じと言える。今だって世界のあっちこっちにある。アタシらは見て見ないふりは出来んのだ。
 「アウシュビッツの歯科医」 著者 ベンジャミン・ジェイコブス  紀伊国屋書店 定価1900円+税
   監訳者 上田 祥士  訳者 向井 和美( 2018年12月19日 第6刷発行 )

STV・HBC

2021年01月12日 | 古本
出るとは思っていたが、やっぱり出たのですね。ただ残念なのは川島 博行さん、あなた筆力不足です。日高さんが活躍していた
周りの方々のインタビュー構成が大半。道新夕刊「私の中の歴史」に32回もの連載となった。きっとそれは新記録の回数かも
知れない。それはそれで面白かったが、とても稀有な天才日高 晤郎氏に及んでいない。有名人が亡くなった際、その方の関連本
が出るが、情けない程の筆致のことがある。そうなると亡くなった方が貧弱に見えることが有る。よくラジオを聴いていたアタシ
にはとてつもない天才だったのにだ。もうあのような話芸人は二度と出ないし、いま日本にほかにもいない。得難い人材をSTV
ラジオは見い出し、失った。その損失はいちラジオ局だけでなく、道民や日本全体の損失となった。享年74歳、あまりにも惜しい。
 「日高晤郎 フォーエバー」 著者 川島 博行  エイチエス  定価1600円+税
  ( 2020年4月20日 初刷 )

技術的な詳しい話や機材のことが書かれていることを期待していたが、わずかに知った人の名が3名ほど載っていた。まあ無理もない、
長沼さんは制作畑のAD、D、Pと進まれた。東芝日曜劇場でHBCが年3本か4本も創っていたいた頃のいい時代だったお話。
なんともキー局に負けない程の良作を撮っていたのだ。アタシにも記憶のある作品が多数出てくるが、あーなんといい時代だったと思う
ばかり。なんによらずその才能は後にHBCの社長となり、退職後は札幌ドームの社長となっても発揮された。
昨年の「記憶のミライ」展にお出で下さり名刺交換をしていただいた。過去の作品を極めて稀な機種で数百本持っているのだがと相談
された。考えてみると博物館にはその一体型カメラもVTRもある。再生してDVD化も出来ると思うが、そう気やすくメールなど出来
る方でもない。さてどうしたものか考え中。
 「北のドラマづくり半世紀」 著者 長沼 修  北海道新聞社 定価1500円+税
  ( 2015年6月17日 初版第1刷発行 )


彷徨の方向性

2021年01月09日 | 新 刊
文房具を買うついでに文庫棚を流していたら、読みたかった本が有ったのでつい買ってしまった。古本列伝にも悖る行為だが
正月だしと、許してしまった。
柳美里さんのだが、最後まで読んだ。どうも柳さんとは相性が悪く、最後まで読み終えたことがない。で今回はアタシにも身に
つまされることもありなげ出さずにすんだ。ただどうしてこうも時間軸などをいじって解かりづらくするのだろう。普通に書き
進めばいいものをだ。アタシがホームレスに成らなかったのは核たる故郷が有ったからかもしれない。集団就職で川崎に行った
ダチも居た。東京に行った時、そのダチのアパートを訪ねたが、その大笑いなネタは何年か前に書いたのでここでは書かない。
今作外国での評価が高いらしいが、福島訛りや擬音などどんな風に翻訳されたのだろうか。して意味も伝わったのだろうか不思議だ。 
 「JR上野公園口」 著者 柳 美里  河出文庫 定価600円+税
  ( 2021年1月7日 15刷発行 )

〔まさかとしま〕さんと覚えてしまった〔まさきとしか〕さんがこんな本を書いてしまってありゃまあだ。ミステリーなどは好きで
はないが、まあこんなものか。ただ札幌在住という理由だけでアタシは嬉しい。少しは楽しめたし。
帯のコピーには「まさかの結末にあなたは戦慄するか涙するか」とあったが、アタシは戦慄も涙もしない。展開も結末もユニーク
なのだが、まさきさんが描きたいのはこういう方向なのか。だとすると「なぜ北海道にはミステリー作家が多いのか」という本の
続編が出れば、その名が加えられるだろう。
 「あの日、君はなにをした」 著者 まさき としか  小学館文庫 定価720円+税
  ( 2020年11月2日 第7刷発行 )

3秒という時間

2021年01月03日 | 古本
原平さんもすでに故人、あの新宿四谷3丁目で、バー「ミドリ」での中平 卓馬氏(中平さんも故人に)との話は聞いていて面白かった。
アタシは物言わぬ洗い物ボーイに徹していたが、いずれは何者かになろうと不眠症になりながら焦っていた、刺激を受けたのは言うま
でもない。中平さんに〔新宿ムービー〕を教えてもらい中古のボレックス16mmカメラを買った。思えばそれがカマラマンのスタート。
あれから50年以上になる。もう夢の中だ。原平さんもその後作家として「直木賞」を受賞した。 
 「老人とカメラ 散歩の散歩の愉しみ」 著者 赤瀬川 原平 実業之日本社 定価2000円+税
  ( 1998年4月25日 初版第1刷発行 )

ひょっとして既読かと疑いながら読んだ。桶川ストーカー殺人事件ものは何冊も出ており読んでいたが、読み進めると既読ではない
ことが分かった。ほかのとは埼玉県警のヘボさは同じだが、被害者の友達への食い込み方は断トツだ。して警察でもないのに真犯人
を断定するまでに至った。被害者の両親とも信頼関係が築けていたのだ。そして1年後にはこの本も発刊されていた。書くべきネタ
をこれ程に持っていたのだから当然というべきか。FOCUSという週刊誌はもう今はないが、今でも在ったらと時々思う。こんな取材
をさせるだけの余裕があったのだね。
以前は3秒で女は男を瞬間に見定めるべきだと、その逆もアリと書いた。その考えは今も変わらない。
 「遺言 桶川ストーカー殺人事件の深層」 著者 清水 潔  新潮社 定価1400円+税
  ( 2000年10月20日 発行 )

11月から年末までに読んだのは7冊、以前の何分の1かだ。雑用やいろんな事情はあったが、それにしても少ない。反省だ。