帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (213)うきことを思つらねてかりがねの

2017-04-28 19:10:19 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 213

 

雁の鳴きけるを聞きてよめる          躬恒

うきことを思つらねてかりがねの なきこそわたれ秋の夜なよな

 雁が鳴いたのを聞いて詠んだと思われる・歌……かりする女が泣いたのを聞いて詠んだらしい・歌。 みつね(古今集撰者の一人)

(世の中の・憂きことを思い連ねて、雁の声が、鳴きつづくよ、秋の夜毎に……浮きことを思い連ねて、かりする女の声が、泣きつづくよ、飽き満ち足りる夜な夜な……憂きことを思い連ねて、肢下の根が、おとこ泣きし続ける、厭きの夜毎に)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「うきこと…憂きこと…つらいこと…浮きこと…浮かれたこと」「かりがね…雁が音…雁の声…鳥の言の心は女…女の声」「ね…音…声…根…おとこ」「なき…鳴き…泣き」「こそ…(前の語を)強く指示する」「わたれ…わたる…(山などを越えて)渡る…広がり満たす…(その情態が)続く」「あき…秋…飽き…飽き満ち足り…厭き…あきあき」「よなよな…夜な夜な…夜毎夜毎に…世なよな」。

 

世の中の・辛い事を思い連ねて、雁の声が、鳴きながら、渡ってゆく、秋の世なよな。――歌の清げな姿。

浮きことを思い連ねて、かりする女の声が・喜びの泣き声が、満ち、続く、飽きの夜な夜な……辛い思いを連ねて、かりする肢下の根が、汝身唾を流しおとこ泣きつつ、厭きの夜毎に。――心におかしきところ。

 

飽き満ちる夜な夜な、かりする妻女の、浮天に漂う喜びの声を詠むとともに、その厭きの、おとこの辛い思いを詠んだ歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)