帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百四十四〕いみじうきたなき物

2011-12-03 00:06:36 | 古典

  



               帯とけの枕草子〔二百四十四〕いみじうきたなき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百四十四〕いみじうきたなき物

 
 文の清げな姿
 ひどく汚いもの、なめくじ。見かけと違う板敷の箒の先。殿上の格子。


 原文
 いみじうきたなき物、なめくぢ。ゑせいたじきのはゝきのすゑ。殿上のがうし。


 心におかしきところ
 ひどく汚らしいもの、舐め口、似非(似て非なる)致しきのほほきの先端、殿上の(控の間の)合子。

 
 言の戯れと言の心

「きたなき…汚い(不潔な)…(塵など溜まって)汚い…穢い…けがらわしい…恥を知らない」「なめくぢ…蛞蝓…汚らしい軟体動物…なめくち…舐め口…口づけ」「ゑ()せいたしき…見かけは普通で実は汚れた板敷き…似非致しき…枝背致しき…おとこ身の枝、背致した」「いたす…するの丁寧語」「はゝき…ほほき…箒…木…男」「はは…ほほ…おお…おとこおとこ」「き…木…男」「かうし…格子…がうし…がふし…合子…上の蓋と下の容器がほば同じ大きさの椀、銅製、漆など形もいろいろとあり、御香などの入れ物…交士…男同士の交わり」「合…合体」「し…子…おとこ…士…男」。


 「なめくぢ」「似非板敷の箒の末」「殿上の格子」は、一応汚らしいという様子をしているため、文はそれで完結しているように見えるが、これらは包装である。

裏に生々しい素顔が隠されていることに、今は気付くこともないでしょうけれど、当時にあって「文芸の様を知り言の心を心得た」大人ならば、たちまち本意がわかる。
 
これは、「言い過ぎたところがあるので、よう隠し置いたと思ったのに、心外にも漏れ出てしまった」文の一つ。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新日本古典文学大系 枕草子による。