帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第九 羇旅歌 (415)糸による物ならなくにわかれ路の

2018-02-14 19:42:17 | 古典

            

                      帯とけの「古今和歌集」

                      ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)を心得るべきである。藤原俊成の云う「浮言綺語の戯れに似た」歌言葉の戯れの意味も知るべきである。

 

古今和歌集  巻第九 羇旅歌

 

東へまかりける時、道にて、よめる  貫之

糸による物ならなくにわかれ路の 心ぼそくも思ほゆる哉

(東の国へ使者として行った時、道中にて詠んだと思われる・歌……吾妻へまかった時に、通い路にて詠んだらしい・歌)つらゆき

(糸に撚る物ではないのに、妻子との別れ路が 心細く・糸のような絆に、思われるなあ……意図によるものではないのに、山ばでの吾妻との、別れ路の、別れたくないが、心細く思われるなあ)

 

 

 「東…あづま…吾妻…我妻」「まかり…赴任する…使者として行く…罷り…引き下がり」「道…道中…路…通い路…おんな」。

 「糸…細く弱いもの…いと…井門…おんな」「よる…撚る…依る…寄る…頼る」「別れ路…(見送る人との)別れ路…(妻子との)別れ路…別れじ…別れたくない」「路…じ…打消しの意思を表す」「哉…かな…ことよ…だなあ…感嘆・詠嘆の意を表す」。

 

糸に撚る物ではないのに、妻子との別れ路が 心細く・糸の絆に、思われるなあ――歌の清げな姿。

妻子と別れて、任務のために行く羇旅、別れの心細い心情。

 

意図によるものではないのに、山ばでの吾妻との、別れ路の、別れたくないが、心細く思われるなあ――心におかしきところ。

山ばでの我妻との別れ、おんなは不満足で別れたくないが、行き行きて、逝き果てるおとこのさがの詠嘆。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)