帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百五十一〕人のうへいふをはらだつ人こそ

2011-12-12 00:09:35 | 古典

  

                    帯とけの枕草子〔二百五十一〕人のうへいふをはらだつ人こそ


 
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百五十一〕人のうへいふをはらだつ人こそ


 文の清げな姿
 他人の身の上を、とやかく言うのを腹立てる人こそ、よくわからないことよ。どうして言わずに居られましょうか。わが身の上はさし措いて、これほどもどかしく、言いたいことが他にあるかしら。だけど、とやかく言うのは・咎めるべきことのようでもあり、それに、自然と聞きつけて恨んだりする、よろしくはない。
 それに、思い離れられそうもない方は、お気の毒などと思い解っていれば、我慢して、身辺のことなど・言わない。そうでないと・言い出し笑ったりもするでしょう。


 ――関白失せ給い内大臣流され給うた中宮方の衰えをば書かない。これは「心ばせ(才気ある心づかい)」である。立場が違う人々には、わが思うお方の身の上の不幸は、笑いの種になるかもしれない。

 原文

人のうへいふをはらだつ人こそ、いとわりなけれ。いかでかいはではあらん。わが身をばさしをきて、さばかりもどかしく、いはまほしきものやはある。されど、けしからぬやうにもあり、又をのづからきゝつけて、うらみもぞする、あひなし。
 
又思ひはなつまじきあたりは、いとおしなど思ひとけば、ねんじていはぬをや、さだになくは、うちいでわらひもしつべし。


 心におかしきところ

男の上正妻をとやかく言うのを、腹立てる男こそ、よくわからないことよ。他の妻たちが・どうして言わずに居られるでしょうか。わが身のことはさし措いて、これほどもどかしく、言いたいことが(他に)あるかしら。だけど、異様で咎めるべきことのようでもあり、それに、正妻が・たまたま聞きつけて、恨んだりする、つまらない。

それに、もしも思い離れそうな男ならば、その・思いがなくなれば、祈念してまで、正妻のことなど・言わないでしょう。そうでなければ、正妻の悪口を・言い出して笑ったりするでしょう・そうするがいい。


 ――他の妻が正妻をとやかく言うのは君が愛おしいから。


 言の戯れと言の心

 「人…他人…男」「うへ…上…身の上…貴人の妻…正妻」「あたり…辺り…周辺…お方」「いとおし…かわいそう…おきのどく…愛おしい…愛している」「おもひとけば…思いが解ければ…思いがわかれば…思いが解消すれば」「ねんじて…念じて…我慢して…こらえて…祈念して…祈る思いで」「まじ…打ち消しの推量を表す…しそうにない…まし…仮に想像する意を表す…もし何々だったら」「さだになくは…そうでなければ…立場かかわり思うお方でなければ…君を愛おしく思わないならば」。


 『枕草子』の文には表も裏も中味もある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。