帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(36)鶯の笠に縫ふてふ梅の花

2016-10-04 19:03:41 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                   ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解き明かす。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
36


           梅の花を折りて詠める    東三条左大臣

鶯の笠にぬふてふ梅の花 折てかざさむおいかくるやと
              
梅の花を折って詠んだ歌     東三条左大臣(源常・古今集に、この一首のみ)

(鶯が笠に縫製するという梅の花、枝折って、髪に挿し飾りにしょう、老いが・増した白髪が、隠れるかと思って……女がかさにかかって、ぬい合わすというおとこ端、折りて、かさ冷まそう、おい隠れるかな・追いかけ来るかな、と思いつつ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「鶯…鳥…言の心は女」「笠…花笠…嵩…容積…かさにかかる…勢いづく」「ぬふ…縫う…縫製…縫合…合わせる」「梅の花…男花」「折りて…降りて…退いて」「折…夭折…逝」「かざさむ…かざそう…髪挿にしよう…かささむ…嵩冷む…勢いなくそう」「かさ…嵩」「さむ…冷む…冷める…冷まそう…高まる感情をしずめよう」「おいかくる…老い隠る…おい隠れる…感の極みが隠れる…追いかけくる…追って来る」「や…かな…疑いの意を表す…問いの意を表す」「と…と思って…引用のと」。

 

梅の花を折って頭飾りにしょう、白梅の花、白髪が隠れるだろうかなと思って。――歌の清げな姿。

かさにかかった女の性(さが)に、たじたじとなった男の心が歌言葉の戯れに顕れる、折りて嵩冷めても、まだ追いかけくるかな。――心におかしきところ。

 

「心におかしきところ」には、詠み人のほんとうの心根が顕れている。近世以来の国文学的解釈は、「清げな姿」しか見えなくなった。貫之のいう「歌の様」を知らず「言の心」を心得ないからである。

源常(みなもとのときは)は、古今集成立(905)のほぼ五十年前に亡くなった人。歌人として無名ながら、歌言葉が吟味され、その孕む複数の意味が見事に活かされてある。姿清げで、心におかしきところがある。

 

本歌は、巻第二〇の神遊びの歌にあるので、後日聞く事になると思うけれども、歌を簡単に紹介すると、

青柳をかたいとに撚りて鶯の 縫ふてふ笠は梅の花かさ

(青柳の細枝をかた糸に撚りて、鶯姫が縫うという笠は、梅の花笠よ……若者の細枝を、堅い門に、より入れて、女がほう合する、彼さは・あれは、おとこの端のあれさ)

 

音楽と踊りが伴って、「心におかしきところ」は更に玄之又玄なるものとなる。言い換えれば幽玄となるのである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)