帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(38)きみならで誰にか見せむ梅の花

2016-10-06 18:51:58 | 古典

               


                             帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


  
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、普通の言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解く。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
38


          梅の花を折りて人に贈りける        友 則

きみならで誰にか見せむ梅の花 色をも香をもしる人ぞしる

梅の花を折って、ひとに贈った歌        紀友則

(きみでなくて、誰に見せようか、だれにも見せない、梅の花、色彩も香りも、情趣を・知る人ぞ知る……あなたの他に、誰に見せようか、見せはしない、わが・おとこはな、色情も香りも、見知る人ぞ、汁)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「きみ…君…男女ともに用いる、あなた」「見…目で見ること…覯…媾…まぐあい」「梅の花…男花…おとこ花…おとこ端」「はな…花…端…先端」「色…色彩…有形のもの…色情」「か…香…香り…彼…あれ」「しる…知る…見知る…体験あり…汁…液…滲み出る液」。

 

情趣のわかる人に、梅の花を贈るとて、詠んで添えた歌。――歌の清げな姿。

他の誰に見せようか見せはしない、わが、お花の色香は、見しるあなただけが、しる。――心におかしきところ。

 

変わらぬ愛情を告げる歌と思われる。この「心におかしきところ」は、妻女の身と心を「あはれ」と振るわせたに違いない。仮名序に言うように「目に見えぬ鬼神(鬼が身)をも、あはれと思わせる」かどうかはともかくとして、「男女の仲をも和らげる」力がある事は、納得できるだろう。


 紀友則は、貫之の年上の従兄弟。古今集撰者の一人、「古今和歌集」の奏上を前に亡くなったようである。大内記(正六位・中務省で、詔勅、宣命を作り、辞令を書くなど宮中の記録をつかさどる役人の上官)。言わば、言葉のプロである。「言の心」と「言の戯れ」の用い方に顕れている歌言葉の意味を、この人と同じように心得てもいいだろう。


 (古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)