帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(56)見わたせば柳さくらをこきまぜて

2016-10-27 18:52:34 | 古典

             


                        帯とけの「古今和歌集」

                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、歌の「清げな姿」だけではなく、隠れていた「心におかしきところ」が顕れる。
それは、普通の言葉では述べ難いエロス(性愛・生の本能)である。今の人々にも、歌から直接心に伝わるように、貫之のいう「言の心」と俊成の言う「歌言葉の戯れ」の意味を紐解く。

 

「古今和歌集」巻第一 春歌上56

 

花盛りに京を見やりてよめる    (素性法師)

見わたせば柳さくらをこきまぜて 宮こぞ春の錦なりける

(花盛りに京を眺望して詠んだと思われる・歌……おはな盛りに絶頂を見すえて詠んだらしい・歌)

(見渡せば、柳や桜を、ごちゃ混ぜて、都は、春の錦織であることよ……見つづければ、男木咲くらを、こき、交ぜて、有頂天ぞ、春の錦・春の情の色模様、であるなあ)


 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「見わたせば…眺めれば…見つづければ」「見…眺望…覯…媾…まぐあい…みとのまぐはひ」「わたす…広く何々する…ずっと続けて何々する」「やなぎ…柳…木…木の言の心は男(松だけは例外で女)」「さくら…桜…木の花…男花…男端…おとこ…おとこ花」「こきまぜ…ごちゃ混ぜ…何もかも混ぜ(草花の色も混ぜ)…しごき取り混ぜ…放ち交ぜ」「こき…しごき…こく…体外に出す…放つ」「宮こ…都…京…山ばの頂上…極まり至った処…有頂天・この世の快楽の頂点」「ぞ…強調する意を表す」「春の錦…季節の春が織り成す色とりどりの錦織…春情がおり成す色模様」「なりける…気付き・詠嘆…なのだなあ」。

 

眺望すれば、草・木の緑に、花さき、色々ごちゃ混ぜになって、京の都は、春の織り成す錦だなあ。――歌の清げな姿。

見つづければ、男木さくらを、こき、交ぜて、有頂天ぞ、春情の色模様だなあ。――心におかしきところ。

 

花盛りの京のまちを眺め、皮肉を込めて、男どもの俗界での有頂天の色模様を詠んだらしい歌。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)