帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺二十二)檳榔毛は

2012-03-02 15:00:13 | 古典

  



                    帯とけの枕草子(拾遺二十二)
檳榔毛は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なった言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」だけである。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺二十二)びらうげ


 文の清げな姿

 檳榔毛(びらうげ・高級牛車)は、のどかにやっている。網代(あじろ・普通牛車)は、走らせて来る。


 原文

 びらうげは、のどかにやりたる。あじろは、はしらせくる。


 心におかしきところ

 上等なものは、ゆったりとやっている。普通のものは早く来る。


 言の戯れと言の心

 「びらうげ…檳榔毛の車…上皇、親王、大臣などが用いた牛車…上等な車」「車…しゃ…者…もの…おとこ…くるま…(山ばや果ての)来る間」「のどか…動作などがゆったりとしているさま」「やりたる…行かせている…進ませている」「あじろ…網代車…四、五位の者の常用車…普通の車…普通のもの」「はしらせ…走らせ…早く進ませ」「くる…来る…(山ばや果てが)来る」。


 おとなの女による、おとこの品定め。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子(拾遺二十一)畳は

2012-03-02 00:13:19 | 古典

  



                     帯とけの枕草子(拾遺二十一)畳は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」だけである。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺二十一)たゝみは


 文の清げな姿

 畳は高麗縁、また、黄なる地の縁。


 原文

 たゝみは、かうらいばし、又、きなるぢのはし。


 心におかしきところ

  多々見は上等な端。またも、お疲れ色の柱の端。


 言の戯れと言の心

 「たたみ…畳…多多身…多情な身…多多見」「見…覯…媾…まぐあい」「かうらいはし…高麗縁…高麗錦の縁(舶来の錦の縁)…上等な端」「はし…端…へり…縁…身の端」「黄…黄色…お疲れ色」「又…ならびに…ふたたび…またまた」「ぢ…地…生地…柱…(楽器の弦の)張りを支えるもの…はしら…おとこ」「はし…身の端…おとこ」。


 おとなの女たち向けの諧謔。「をかし」と読まれればそれでよし。

 


 紫式部 源氏物語 紅梅に「琵杷は、おして(押手)しずやかなるを、よきにするものなるに、ぢう(柱)さすほど、ばち音のさま変わりて、なまめかしう聞こえたるなむ、女の御琴にて、なかなかおかしかりける」という台詞ある。   
 
 大納言(故柏木の弟)が、或る姫君に、琵杷の琴の、夕霧直伝の演奏を所望する言葉であるが、姫君の女房たちが大納言から隠れてしまい、奏する気配はない。いと若き女房たちが大納言にお目にかかりたくないと思いながらも、何となく其処に居るだけだった。「侍る人さへ、かくもてなすか、やすからぬ」と言って大納言が腹立てる場面である。

琵杷の演奏を所望する大納言の言葉自体が、なまめかしい意味合いを孕んでいるので、それのわかるおとなの女たちは姿を隠した。


 「びは…琵杷…楽器…女」「おして…押手(弦を押さえる手)…お士手…おとこ」「ぢうさす…張りを強くする」「ばち音…撥音…はぢ声…恥ずかしい声」「なまめかしう…新鮮に…生々しう…艶めかしう」「御琴…御言…お声」。
などの、言の戯れと言の心を心得て読めば、色好みなところがわかる。
さすが紫式部、大納言の台詞の色好みなところは「玄之又玄」の奥に秘めてある。


 
伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。