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帯とけの枕草子〔二百八十三〕十二月二十四日
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百八十三〕十二月二十四日
十二月二十四日、宮(主催)の御仏名の、半夜の導師の説教を聞いて退出する人は、真夜中ごろも過ぎていたでしょうか。日ごろ降っていた雪が、今日はやんで、風がひどく吹いたので、垂氷(つらら)多くできていて、土地はまだらで白いところが多い。屋根の上は、ただ一面すべて白いので、あやしく賤しい家屋も、雪に皆面を隠して、有明けの月が隈なく照らしているので、いみじうおかし(とっても風情がある)。白金など葺いたような(屋根に)、水晶の滝とでも言いたいような(つららが)長く短く、わざわざ掛けひろげたように見えて、言うにも余るほど愛でたいときに、下簾もかけない車が、簾をとっても高く上げているので、奥までさしいる月に、薄色、白いの、紅梅色など、七つ八つばかり着ている上に、濃い衣のとっても鮮やかな艶など月に映えて、おかしうみゆる(すばらしく見える女の)傍らに、えび染めの固紋の指貫、白い衣など多数、山吹色、紅など着て、はみだしていて、直衣のとっても白い紐を解いたので、脱ぎ垂れて、たいそう(車より)こぼれ出ている。指貫の片方は、とじきみ(軾)のもとに踏み出してしているなど、道で人に出会えば、おかしとみつべし(おかしなことよと見たでしょう)。
月のかげのはしたなさに、うしろざまにすべりいるを、つねにひきよせ、あらはになされて、わぶるもおかし(月の光の無遠慮さに、車に後ろ向きにすべり入っているのだが、男は常に引き寄せ、あらわになされて女が困っているようすがおかしい……つき人おとこのはしたなさのために、うしろざまにすべり入るお、つねに引き寄せ、女が衣はだけて顕わにされて、堪えられず呻いているのも、犯し)。
「りんりんとしてこほりしけり(凛凛として氷敷いていることよ……りんとひきしまって子堀りしていることよ)」という詩を、繰り返し朗詠しておられるのは、とってもおかしくて、夜一晩でも後についていたいのに、いく所のちかうなるもくちおし(我が車の行く所が近くなるのも残念……逝き着くところが近くなるのも残念)。
言の戯れと言の心
「こほり…氷…子堀り…子の君の川掘り…まぐあい」「月のかげ…月の影…月の光…男の威光…つき人おとこの魅力」「いく所…行き先…逝くところ」「おかし…をかし…おかしい…犯し」。
男が朗詠した詩は、和漢朗詠集にもある、聞きましょう。
秦甸之一千余里、凛々氷鋪。
漢家之三十六宮、澄々粉飾。
(都周辺の一千余里、寒く凍てついて氷舗装。王宮の数々の宮殿、澄みわたって白化粧……宮こ周辺の一千余里、りんりんと身もひき締まりこほりする。宮の女のかずかずの宮こ、澄みわたって白く粉飾)。
聞き耳異なるもの、男の言葉。
「秦甸…長安の周辺…みやこ周辺…絶頂辺り」「鋪…舗…舗装…しきつめ」「凛々…寒さに身の引き締まる感じ…りりしいさま…おそれ慎むさま」「家…いへ…女…宮殿」「宮…宮こ…極まり至ったところ」「澄…空気が澄む…水が澄む…心が澄む」「粉…白…おとこの色」「粉飾…白化粧…うわべを飾る」「白…澄んだ色…果てた色」。
宮主催の仏名会(清涼殿のほか各寺でも行われた)に来て、男は相乗り車で帰り、このざまでした。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。