「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

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ハウリンメガネが縦横無尽に吠える「メガネの遠吠え!」(第11回) 俺たちのジェフ・ベックを追悼

2023-01-14 13:18:03 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

忘れられない音というものがある。

あれは中学生の頃、
父のレコード棚を漁って見つけた、カッコいいあんちゃんがレスポールを構えたジャケット。

これはカッコいいに違いない!
と思い、針を落としたド頭。
派手に銅鑼が鳴り響き、流れてきたのは
「ウワンッワックーウワッ」
とでも表現するしかない、
そんな不思議な、ギターだけどギターじゃないような、歌のようなそんな音。
そこへなだれ込む様にギターと絡み合っていく超重量級のリズム隊とパワフルなボーカルとコーラス……

もう20年以上前に聴いた、
ベック・ボガート&アピス(BB&A)
『ライブ』(イン・ジャパン73)
国内別ジャケットの75年再発1枚盤仕様
(オリジナル盤は2枚組で写真無しの別ジャケット)

そのオープニング、「迷信」の話である(後々この時の音がトーキングボックス(ギターの音をホースを使って口へ入れ、それをマイクで拾うことでボコーダー的な音を出すエフェクター)による物と知ったが、当時の私は「ギターでどうやればあんな音が!?」と唸っていた)。

このジェフ・ベックって人がギター?
あ、この人が三大ギタリストのジェフ・ベックか。カッコいいなぁ、他のアルバムないかな?
あっ、ある。
ジャケにジェフ・ベックって書いてある。
あっ、ストラトだ。こっちはレスポールだ。

ラッキーな事に、レコード棚には名盤
『ワイヤード』

『ブロウ・バイ・ブロウ』もあった!
(前者はストラトを持ったジェフ、後者はレスポールを持ったジェフがジャケット)。

『ワイヤード』のオープニングは「レッド・ブーツ」
ド頭のそれまで聴いたことのない、複雑な響きのコード。それなのに間違いなくカッコいい、不思議なロックギターの音。
そして斬り込むようなリードギターとそれに呼応するヤン・ハマーのシンセサイザー。何なんだこの音楽は。俺の知ってるロックと違う気がする……

そして気づく。あれっ、歌がない。
どれだけ盤が回っても歌がない。
アルバム一枚通して歌がないアルバムもあるのか……

続けて聴いた『ブロウ・バイ・ブロウ』
あれっ、地味だ。『ワイヤード』はBB&Aみたいな音でカッコよかったのに……

A面が終わり、盤をひっくり返す。
んおっ?なんだこのギター?
滑らかに紡がれる哀愁を帯びたギターフレーズ。
伸びやかなサスティンで歌うロングトーンがスムーズにスッ、と消えていく。繊細な美しさがある"ロックギター"……

ロイ・ブキャナンに捧げられた「哀しみの恋人たち」はやっぱりロックギターの歴史に残る名演だ(そうそう、迷信もこれもスティービー・ワンダーの曲だ。ジェフとS.ワンダーは相性がいい。この2曲にまつわる二人の逸話もいい。元々迷信はジェフに提供され、ジェフの作品としてリリースされるはずが、S.ワンダーがレーベルと揉め、結局S.ワンダー自身のアルバムに先に収録、リリースされてしまった。ジェフも落ち込んだがS.ワンダーもだいぶ気に病んだようで、お詫びのつもりでジェフに提供したのが哀しみの恋人たち。そんなことがあっても仲は良かったようで、ジェフの人のよさが伺える)。

ジェフ・ベックという名前を覚えた私は
そこから彼の音を掘っていく。
第一期ジェフ・ベック・グループ、第二期JBG、ヤードバーズ、そしてフュージョン期以降のソロ……

『ユー・ハッド・イット・カミング』収録の「ナディア」。
スライドバーとストラトのアームを組み合わせた、滑らかで、ファルセットで歌うシンガーのようなギター(ジェフは中指にスライドバーをはめるが、時折はめずに持ったまま滑らせたり、右手で使ったりする。ライブでスッと胸ポケットからバーを取り出す姿がまたいい)。

ギターを泣かせるギタリストはいる。
だが、ギターを歌わせるギタリストは数少ない。
自分の声として、自分の肉体で歌うようにギターを自分の声にできるギタリストは一握りだ。
そしてジェフはその一握りの中のトップランナーだ。

『フー・エルス!』のエンディング「アナザー・プレイス」。リバーブの効いたクリーントーンのギターだけ(ホントに独奏なのだ)で紡ぎだすメロウでセンチメントな音像。2分に満たないこの小曲がどれだけ美しいか。全編このスタイルで一枚出してほしかったぐらいにいい音、いい曲だ。

そして、やはりコージー・パウエルとやっている第二期JBGが抜群に好きだ(ジェフの家にはコージーが使っていたドラムセットがそのまま飾ってあるらしい)。

「シチュエイション」のイントロ、ミュートの効いたリフを聴くだけでゾクゾクする。「ガット・ザ・フィーリン」のラフなワウプレイからメロウなサビへ移る瞬間なんか最高だ。R&Bの黒いグルーヴを荒っぽいロックのやり方でグイグイ引き回す、そんなアグレッシブなテンションが盤から立ちのぼってくるようだ……

どの時期のジェフもとにかくギターが似合う(ルックスもずーっとカッコいいままだったなぁ)。
そして使っているギターがこれまたどれもカッコいい。

ボロボロのフェンダー・エスクワイア、オックスブラッドカラーのバーブリッジのレスポール、テレギブ(セイモアダンカンが改造したらしい)、ストラト……特にジェフのシグネイチャーストラトはウィルキンソンのローラーナットや2点支持トレモロなど、モダンなパーツを載せている。

この辺りの頑丈さと機能美を重視したパーツ選定のセンスもカーキチのジェフらしい(ジェフのカーキチっぷりは有名な話で、一時期表立った活動がなかったのは自宅ガレージで車のチューニングに勤しんでいたからという噂も……)

アンプはマーシャルの50w。それにワウとブースターぐらい。そこにストラトをプラグインしたら後は自分の指だけで無限にカラフルな音を出せる。それがザ・ギタリスト、ジェフ・ベックだ……

彼の訃報を見たときには目を疑った。
いやいや、ついこの間ジョニー・デップとアルバム出してたじゃない……
なんで?急病……そっか……

妙な寂しさだった。
敬愛する人が死んだ時や、親族が死んだ時と違う寂しさだった。

そうだ、これは友達が死んだ時の寂しさだ。 
古い友達の死を風のうわさで聞いた時に感じた寂しさだ。
ギターという楽器が好きで、ジャムるのが好きで、音楽が好きで、只々それに夢中になって、ひたすらそれを続けていた、そんな友達が死んだと聞いた寂しさだ。

ギターゴッド、百万ドルのギタリスト、ギターヒーロー、スーパーギタリスト。
世間に凄腕のギタリストを表す二つ名は数あれどジェフ・ベックにはそのどの呼び名も似合わない気がする。

ギター・キッド。
初めてギターを手に取った日、夢中でそれをいじり続けた少年。いくつになっても結局ギターが好きでずっと弾き続けてきたあの日の少年。
布団に入ってから思いついたことを試したくなってついギターを手にとってしまったり、朝、まだ寝ぼけた頭で昨日寝る前に考えたセッティングを試す。ギター小僧なんてみんなそうだ。
きっとジェフもそうだったんだろ?
最後の最後までギター小僧だったんだろ?

ジェフ・ベック。
永遠のギター・キッド。
ありがとう。R.I.P。

《ハウリンメガネ 筆》



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