僕の詩集

「人間・人生・生きる」をテーマに、色々な角度から人間を描写し、格言詩を目指しております。
読みやすく解りやすい詩です。

僕の詩集No.693【 終 戦 】

2024-05-30 05:30:05 | 
   終 戦

      にのみや あきら

大人しかった人たちが急に威嚇めいてきた
どこに隠しておいたのか日章旗ににせた国旗を
昨日まで路地裏で小さくなっていた子供たちまで
腰のまわりに何本も差し
胸を反らせて闊歩した

この国は俺たちのものだ!
日本人は自分の国へ帰れ!
これからは俺たちが大将だ!

勝ち誇った朝鮮人の変身ぶり
ロシア兵の残忍さ
アメリカ軍の不気味さを
深刻に話し合う親たち
その影で、事の重大さが解っていない僕は
閉鎖された学校へは行けず
危険なため外出できず友達とも遊べず
腑に落ちない不安を抱いて
空虚な時を過ごした

女 子供は外出禁止だ !

チョコレートを持ったアメリカ兵が
戦車で街に侵入し
怪獣の行進をした

誰が主催したのか
お別れ会の劇の配役を口伝てに聞く
だが両親の反対でうやむやにされてしまった
僕の役は誰が演じてくれたのだろう
その後の様子は遂に耳にしなかった
お別れ会は流れてしまったに違いない

命を駆け
誰のために
何をなすためにこの国へ渡ったのか
あれから七十年
顔も名前も色褪せた同胞たちは
本土のどこへ散って
どんな暮らしをしているのだろう
今頃、幸せそうに孫を抱いているのか
それともすでに大地に眠り
天国で夢心地に浸かっているのかもしれない
そんなあなたたちとも
もう永遠に会う事もなくなってしまった
いずれにしても
無慈悲に祖国へ送還された
あなたたちの役目は終った

僕もこんな懐古に耽る年齢になった
だがあの国で経験したあの不安や恐怖は
あの悪夢は
僕の脳裏に鮮明に焼きつき
永遠に色褪せる事はない
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