永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(餅・餅鏡)

2010年12月13日 | Weblog
・餅の由来

「モチ」は民俗学でいうハレの日(非日常、とくに神祭など祝いの日)の食べ物で、稲作農耕の食文化の一つとして伝えられました。
 古い日本では「モチヒ」と言い、モチは糯もちごめ(粘りの強いコメ)や黐もち(ヒエなどをねって粘りをだしたもの)、「ヒ=飯」は穀物を煮たり蒸かしたりした食べ物のことで、その二つの単語を合わせた言葉です。また、「モチ」という言葉の由来は、モチヒを省略したものや、搗いたモチを満月(望もち月づき)のように形づくった(現在の鏡餅)からともいわれます。漢語の「餅へい」は小麦粉をこねて丸く平たく焼いた食品のことですが、日本では独自に「もち米などを蒸して搗いた食品」に限定しています。

餅鏡(もちひかがみ)
 平安時代には「もちひかがみ(餅鏡)」もしくは単に「鏡」といった。正月、餅を丸く平たく作り、二重、または三重に重ねて、飾り置く。歯固(はがため)の餅は食するが、餅鏡は食さずに見て安寧を祈るものであった。
 鎌倉・室町時代になってからは「鏡もち」という現在の名前になった。古くから鏡は霊力を供えたものとして扱われていて、餅は神聖な力がやどる食べ物とされていた。その餅を神の宿る鏡にみたてて形作ったのが鏡もちだといわれています。
お正月に飾る「鏡餅」は、訪れた年神が宿るとされ、「お供え餅」や「お雑煮」の習慣とともに現代に生きています。

3日夜の餅

2010年12月11日 | Weblog
平安時代の結婚・三日夜の餅(みかよのもち)
 
 平安時代の婚姻成立までの過程は、まず、当時の女性は顔を見せないようにしていた為、男性は「垣間見」(のぞき見)や世間の噂から意中の女性を見つけるのである。そしてその女性に「懸想文(けそうぶみ)」といわれる恋文を贈り相手の女性から承諾の手紙をもらい、女房に手引きを頼んで吉日の夜にその女性の部屋へと行くのである。一夜を共にした後「後朝の歌(きぬぎぬのうた)」を贈答し、三日間続けて女性のところに通うのである。そして三日目に「露顕の儀」「三日夜(みかよ)の餅の儀」などを行って初めて婚姻が成立するのである。

 ここで注意しなくてはならない点は男性は三日間続けて女性の所に通わなければならない、という点である。これからはあなたを棄てません、という誓いとなる。三日間ではなく一夜限りの関係では単なる浮気、とみなされてしまうからである。「三日夜の餅の儀」とは三日目の朝に「三日夜の餅」という祝餅が届けられ、催される盛大な宴のことである。

◆参考:清泉女子大受講生のページから。


源氏物語を読んできて(865)

2010年12月11日 | Weblog
2010.12/11  865

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(42)

 次の夜は結婚三日目の夜となって、

「三日にあたる夜餅なむ参る、と、人々のきこゆれば、ことさらにさるべき祝ひの事にこそは、とおぼして、御前にてせさせ給ふもたどたどしく、かつは大人になりて掟て給ふも、人の見るらむことはばかられて、面うち赤めておはするさま、いとをかしげなり」
――結婚三日目の夜は祝いの餅を召しあがるものです、と、侍女たちが大君に申し上げますが、大君も特別にお祝いせねばならない御祝儀だとは思っても、御前でお作らせになりますものの、実はどうしたらよいものか見当もつきません。その上、大人ぶって指図なさるのも、人の目に恥ずかしく、お顔を赤らめていらっしゃいます。いかにも可憐なご様子です――

「このかみ心にや、のどかにけだかきものから、人の為、あはれになさけなさけしくぞおはしける」
――(大君は)姉のせいでしょうか、おっとりと上品であるうちにも、他人にたいして、慈しみ深く思いやりの深いご性質なのでした――

 そこへ薫から御文が届けられました。そこには、

「昨夜参らむと思う給へしかど、宮仕への労もしるしなげなめる世に、思う給へうらみてなむ。今宵は雑役もやと思う給へれど、宿直所のはしたなげに侍りしみだり心地、いとど安からで、やすらはれ侍る」
――昨夜御伺いしたいと思いましたが、一生懸命お仕えの甲斐もなさそうな、あなたとの間を恨めしく存じまして。今宵も(三日夜の)雑用もあろうかと存じますが、先夜のあなたの情れないおもてなしで風邪をひきまして、今なお治らずぐずぐずしております――

 と、

「陸奥紙においつぎ書き給ひて、設けの物ども、こまやかに縫ひなどもせざりける、色々おし巻きなどしつつ、御衣櫃あまた懸子に入れて、老人のもとに、「人々の料に」とてたまへり」
――風情のないごわごわした陸奥紙(みちのくがみ)に、行を揃えて几帳面にお書きになって、三日夜(みかよ)のお祝いに御入要な品々を(お急ぎになられたせいか)、きちんと縫い上げてなどしていなくて、ぐるぐる巻きにした物など、御衣櫃(みぞびつ)をたくさんの懸子(けんし)に納めて、老女(弁の君)のところへ「女房たちのご用に」と差し上げられました――

◆あはれになさけなさけしく=あはれに情け情けしく=しみじみとご愛情深く

◆宮仕への労(ろう)もしるしなげなめる=ご奉仕の甲斐もなさそうな。大君に対して。

◆陸奥紙(みちのくがみ)=良質ではあるが厚手の紙。恋文などには適さない紙。

◆御衣櫃(みぞびつ)あまた懸子(かけご)に入れて=衣裳箱をたくさんの懸子(外箱のふちにかけて、中に落ちないようにして、ひと回り小型の箱をはめこむように作った箱)に入れて。

◆絵:大君への思いの叶わなかった二日前の朝。

では12/13に。

源氏物語を読んできて(864)

2010年12月09日 | Weblog
2010.12/9  864

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(41)

 大君はお話をつづけられて、

「いとこそ苦しけれ。すこしおぼしなぐさみなむに、知らざりしさまをもきこえむ。にくしとなおぼし入りそ。罪もぞえ給ふ」
――私も身を切られるような思いですが、あなたが少しお心が落ちつかれたころに、あの事も、私が知らなかったことについてもお話いたしましょう。無実の人を恨んではなりませんよ。罪を得ることになりますからね――

 と、中の君の御髪を撫でながらおっしゃいます。中の君はお返事をなさいませんが、

「さすがに、かくおぼしのたまふが、げにうしろめたく悪しかれともおぼし掟てじを、人わらへに見ぐるしきことそひて、見あつかはれ奉らむがいみじきを、よろづに思ひ居給へり」
――姉君がこのようにおっしゃるのは、心底私のことをお心に掛けられてのことで、悪しかれと思ってなさったとは思われませんので、この上は匂宮に見棄てられて世間の物笑いにでもなっては、またまた姉君にお世話をお掛けすることになるでしょう。それこそ相すまないことと、お心も千々に乱れていらっしゃいます――

匂宮は、

「さる心もなく、あきれ給へりしけはひだに、なべてならずをかしかりしを、まいてすこし世の常になよび給へるは、御志もまさるに、たはやすく通ひ給はざらむ山道の遥けさも、胸いたきまで思して、心深げにかたらひ頼め給へど、あはれともいかにとも思ひわき給はず」
――中の君が前夜そんなつもりもなく、ただおろおろとしておられた感じさえ、並み一通りのお美しさではなかったものを、まして今夜は、もう少し打ち解けておられるのをご覧になっては、匂宮のご愛情も増してこられるというものです。それにしましても今後、そう簡単には通っていらっしゃれない遥かな山道のことを思われて、お心も苦しくていらっしゃる。ただただ真心をこめて行く末のことなどをお約束なさいますが、中の君は嬉しいともどうとも考え分けられる余裕もないご様子です――

 この上なく大切にかしづかれた深窓の姫君でも、多少世間を知っている方ならば、ものの恥ずかしさも怖さもほどほどでありましょうが、このような山深い御住居の、狭い家の内でひっそりとお育ちになっていらっしゃる中の君は、

「思ひかけぬ有様のつつましくはづかしく、何事も世の人に似ず、あやしうい田舎びたらむかし、と、はかなき御答へにてもいひ出でむ方なく、つつみ給へり。さるはこの君しもぞ、らうらうじくかどある方のにほひはまさり給へる」
――思いがけず匂宮にお逢いしたことが、気まり悪く恥ずかしく、何事もご自分は世間の人と違っていはすまいか、見苦しく田舎じみてはいまいかと、一寸したお返事でも口ごもって、はにかんでいらっしゃるのでした。けれども本当は、この中の君の方こそ、
上品で可愛らしく才気のほの見える点では、姉君より優っておいでになるのです――

◆にくしとなおぼし入りそ=憎し・と・な・思し入り・そ=お恨みなさいますな

◆罪もぞえ給ふ=罪も・ぞ・得給ふ=(無実の人をうらんでは)罪を得ることにもなりましょう。

◆らうらうじくかどある方=上品で可愛らしく才気ある方

◆絵:大君(おおいぎみ)

では12/11に。

源氏物語を読んできて(863)

2010年12月07日 | Weblog
2010.12/7  863

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(40)

「その夜も、かのしるべ誘ひ給へど、『冷泉院に必ずさぶらふべきこと侍れば』とて、とまり給ひぬ。例の、ことに触れてすさまじげに世をもてなす、と、にくくおぼす」
――(匂宮は)この夜も、あの道案内者の薫を宇治に一緒にとお誘いになりますが、
薫は「冷泉院にどうしても伺候せねばなりませんので」とお断りになりました。またいつものとおり、何かと言えば色恋には無関心な風を装っていることよ、と、匂宮は憎らしくお思いになります――

 さて、山里では、

「いかがはせむ、本意ならざりし事とて、おろかにやは、と思ひ弱り給ひて、御しつらひなどうちあはぬ住処のさまなれど、さる方にをかしくしなして、待ちきこえ給ひけり。
遥かなる御中道を、急ぎおはしましたりけるも、うれしきわざなるぞ、かつはあやしき」
――(大君はお心の中で)今更どうしたものか、こちらの望み(薫を中の君に)でなかった事だからといって、いい加減にあしらってはよい訳はない、と、お心も崩折れそうになりながらも、(結婚の)御設備など万事整わない御住居ながら、それなりに風流な山家風に調えて、匂宮をお待ち申し上げております。やがて、匂宮がはるばる遠い道中を急いでいらっしゃったのも、今度は大君には嬉しい気持ちになられたとは、考えれば妙なことですこと――

「正身はわれにもあらぬさまにて、繕はれ奉り給ふままに、濃き御衣の袖のいたくぬるれば、さかし人もうち泣きつつ」
――当の、中の君は、われにもあらぬご様子で、姉君が何かとご衣裳のお支度をされるのにお任せになって、濃い紅のお召し物の袖が涙でしっとりぬれていらっしゃるので、気丈な大君もつい涙をさそわれて――

 しみじみと中の君におっしゃいます。

「世の中に久しくもと覚え侍らねば、明け暮れのながめにも、ただ御事をのみなむ心ぐるしう思ひきこゆるに、(……)はかばかしくもあらぬ心一つを立てて、かくてのみやは見奉らむ、と思ひなるやうもありしかど、ただ今かく、思ひもあへず、はづかしき事どもにみだれ思ふべくは、さらに思ひかけ侍らざりしに、これやげに人の言ふめる、のがれ難き御契りなりけむ」
――私は長からぬ命と思い諦めておりますが、それにつけても朝夕の物思いにも、ただあなたの行く末の事ばかりを気懸りに思ってきたのです。(この頃では女房たちが「良い御縁ですのに」などと口うるさくそそのかしてきます。たしかに年とった老女たちは世知にたけてはいるでしょう)世なれぬ私一人の狭い心から、いつまでもあなたに一人身を通させてよかろうか、と考えるようになりました。けれどもまさか、今すぐにこんな辛いことになろうとは、思ってもいませんでした。これが本当に人の言う逃れ難い宿世というものなのでしょう――

◆正身(さうじみ)=当人、ここでは中の君

◆さかし人=賢し人=しっかりしている人、ここでは大君。

◆写真:、実事後の朝ぼらけを見る匂宮と中の君

では12/9に。


源氏物語を読んできて(862)

2010年12月05日 | Weblog
2010.12/5  862

十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(39)

 一方、大君は、

「知らざりしさまをも、さはさはとはえ諦め給はで、ことわりに心ぐるしく思ひきこえ給ふ」
――(このような成り行きを)ご自分は全く知らなかった事情として、きちんと釈明なさることもできずにいらっしゃいます――

「人々も、『いかに侍りしことにか』など、御けしき見奉れど、おぼしほれたるやうにて、たのもし人のおはすれば、あやしきわざかな、と思ひ合へり。御文もひきときて見せ奉り給へど、さらに起きあがり給はねば、『いと久しくなりぬ』と御使わびけり」
――侍女たちも「いったいどうしたことでしょう」と姫君たちのご様子をうかがっておりますが、大君が、ぼおっとなさっていらっしゃるので、妙なこともあるものと、思い合っております。大君が匂宮の御文を開いて中の君にお見せになりますが、中の君はいっこうに起き上がろうともなさらない。使いの者は「ひどく手間取ることよ」とじりじりしています――

 匂宮の御文の中の歌、

「世のつねに思ひやすらむ露ふかき道のささ原わけて来つるも」
――ありふれた恋心とでもお思いなのでしょうか。露深い山道の笹原を分けて通いましたのに――

「書き馴れ給へる墨つきなどの、ことさらにえんなるも、大方につけて見給ひしは、をかしう覚えしを、うしろめたう物思はしくて、われさかし人にてきこえむも、いとつつましければ、まめやかに、あるべきやうを、いみじくせめて、書かせ奉り給ふ」
――(匂宮の)書き馴れた御筆つきなどが、今日はまた格別にあでやかなので、ただのご交際としてご覧になった時は、趣深く思われましたのに、今は中の君のことが気懸りで、ご自分が利口者ぶって代筆申し上げますのもひどく遠慮されますので、こうした折のお返事の仕方などをお教えして、厭がる中の君を急きたててお書かせになりました――

 匂宮はお忍びのお出かけを他人に気どられまいと思っておられましたのに、使いの殿上童が仰山な禄(ろく)を貰ってきましたのを、不愉快に思われて、それはきっとあの弁の君の仕業だといまいましく思っておいでになります――

では12/7に。


源氏物語を読んできて(861)

2010年12月03日 | Weblog
2010.12/3  861

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(38)

「昨夜の方より出で給ふなり、いと柔らかにふるまひなし給へる、にほひなど、えんなる御心げさうには、いひ知らずしめ給へり。ねび人どもは、いとあやしく心え難く思ひまどはれけれど、さりとも悪しざまなる御心あらむやは、となぐさめたり」
――(明け方になって)匂宮が昨夜入っていかれた所から出ていかれるらしい。たいそう立ち振る舞われるのにつれて漂う薫物の香りなども、こうした恋の道行にふさわしく、ひとしお念入りにご用意なさったものでしょう。老女たちは事の次第が呑み込めず、戸惑い顔ではありますが、いくら何でも悪いようにはなさるまいと、心に言い聞かせて安心しています――

「暗き程にといそぎ帰り給ふ。道の程も帰るさはいと遥けくおぼされて、心安くもえ行き通はさらむ事の、かねていと苦しきを、「夜をやへだてむ」と思ひなやみ給ふなめり」
――(お二人は)暗いうちにと急いでお発ちになります。匂宮は後ろ髪を引かれる思いで、これからは気軽に宇治へ行ったり来たりも出来そうにないと、今から悩みの種ではありますが、中の君との新手枕(にいまくら)を交わしたからには、どうして夜を隔ててすごすことなど出来ようと、しきりに気を揉んでいらっしゃるご様子です――

 まだ人目に立たぬうちに六条院に帰り着かれ、廊のあたりに御車を寄せてお降りになります。

「異やうなる女車のさまして隠ろへ入り給ふに、みな笑ひ給ひて、『おろかならぬ宮仕の御志となむ思ひ給ふる』と申し給ふ。しるべのおこがましさを、いと妬くて、うれへもきこえ給はず」
――風変わりな女車の態を装って、人目を忍んでそそくさと奥にお入りになりますと、お二人で顔を見合わせでお笑いになり、薫が「並々ならぬお宮仕えぶりでございました」と申しあげます。薫は結局のところ匂宮のご案内役で終わってしまった馬鹿馬鹿しさに、情けなくも癪にもさわるので、愚痴を申し上げる気にもなりません――
 
 匂宮は早速後朝(きぬぎぬ)の御文を差し上げます。

「山里には誰も誰も現の心地し給はず、思ひみだれ給へり。さまざまにおぼし構へけるを色にも出し給はざりけるよ、と、うとましくつらく、姉宮をば思ひきこえ給ひて、目も見合わせ奉り給はず」
――宇治では大君も中の君も、真にあった事とも思えず、思い乱れていらっしゃいます。中の君は、姉君があれこれと計画しておられたことを、お顔色にもお出しになられなかったことよ、と、疎ましく辛くお思いになって、目も見合わせられません――

◆「夜をやへだてむ」=古歌「若草の新手枕をまきそめて夜をや隔てむにくくあらなくに」から。

では12/5に。


源氏物語を読んできて(860)

2010年12月01日 | Weblog
2010.12/1  860

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(37)

「いとどしき水の音に目もさめて、夜半のあらしに、山鳥の心地してあかしかね給ふ」
――いっそう激しくなった川瀬の音に目も冴えて、この夜の嵐に、薫は(山鳥は雄、雌が別々のねぐらに寝るという)山鳥のような一人寝のわびしさを噛みしめながら、切ないお気持で夜をお明しになりました――

「例の明けゆくけはひに、鐘の声などきこゆ。いぎたなくて出で給ふべきけしきもなきよ、と、心やましく、声づくり給ふも、げにあやしきわざなり」
――いつものように、ようやくあたりが明け初める頃、山寺の鐘の音が聞こえてきます。きっと匂宮は、中の君とうち解けて、ぐっすりお寝すみになったらしく、これでは起きて来られるご様子ではないな、と、薫はいらだたしい気持ちで、咳払いなどなさるのも、ほんとうにおかしな成り行きです――

 薫は大君への歌に、

(歌)「しるべせしわれやかへりて惑ふべきこころもゆかぬあけぐれの道」
――ご案内をした私が、却って目的を果たさず迷うなんて。明けゆくほの暗い道に帰らなければならないのでしょうか――

 との返歌に、大君は、

(歌)「かたがたにくらすこころを思ひやれ人やりならぬ道にまどはば」
――わたしの事、妹の事とあれこれ心を暗くしている私の心をお察しください。ご自分から道に迷われたのでしょう。――

 と、ほのかにお答えになります。薫はまだまだ心残りで、

「いかにこよなくへだたりて侍るめれば、いとわりなうこそ」
――なんとまあ、このような厳しい隔たりの障子越しでは、いくら何でも、あまりでございます――

 と、しきりに恨みごとをおっしゃっています。そうこうしていますうちに、夜が明けてくるようです。

◆山鳥の心地して=山鳥は雄雌が別のねぐらに寝るとの俗信がありました。まるで山鳥のような一人寝のわびしさの意。

では12/3に。