永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(874)

2010年12月29日 | Weblog
2010.12/29  874

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(51)

「若き人の御心にしみぬべく、類すくなげなるあさけの御姿を見送りて、名残りとまれる御移り香なども、人知れずものあはれなるは、されたる御心かな」
――若い女のお心にはさぞかし深く染むであろう、匂宮の類なき後朝(きぬぎぬ)の別れのお姿をお見送りして、後に漂う御移り香を人知れず懐かしんでいらっしゃるのは、中の君もなまめいたお心になられたのでしょうか――

 今までは暗いうちにお帰りになられた匂宮でしたが、今朝は物の見分けもつく時分ですので、侍女たちは物の透き間から覗き見て、

「中納言殿は、なつかしくはづかしげなるさまぞ添ひ給へりける。思ひなしの今一際にや、この御さまは、いとことに」
――中納言殿(薫)は、お優しくてはいらっしゃるけれど、どこか堅苦しいところがあおりになります。でもこの匂宮は、もう一段ご身分が高くていらっしゃると思いますせいか、何と言っても格別にご立派でいらっしゃる――

 などと、お賛め申し上げています。

 匂宮はお帰りの道すがら、中の君の痛々しいご様子を思い出されて、このまま又、戻りたいとも思われましたが、やはりそれは外聞が悪いと、結局そのまま世間を憚ってお帰りになったのでした。その後、容易に宇治へ行く折りを見出すことがおできになれず、御文だけは毎日何度も何度も差し上げてはいらっしゃいましたが、中の君をご心配になる大君は、

「疎かにはあらぬにや、と思ひながら、おぼつかなき日数のつもるを、いと心づくしに見じと思ひしものを、身にまさりて心ぐるしくもあるかな」
――中の君に対する匂宮のお心は、並み一通りでは無い筈、と思いながらも、不安な日々がつのってくるのでした。これほど辛く心配な目に遇うまいと初めから警戒していましたのに、と、ご自分のこと以上に心ぐるしくて、歎いていらっしゃるのでした――

 けれども、

「いとどこの君の思ひしづみ給はむにより、つれなくもてなして、自らだになほかかること思ひ加へじ、と、いよいよ深くおぼす」
――自分が歎き悲しんでは、いっそう中の君が沈み込まれるとおもわれ、何気ない風に装っておいでになります。そしてやはり自分は結婚などして、このような歎きを持つまいと、いよいよ深くお心に決めるのでした――

では12/31に。