永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(860)

2010年12月01日 | Weblog
2010.12/1  860

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(37)

「いとどしき水の音に目もさめて、夜半のあらしに、山鳥の心地してあかしかね給ふ」
――いっそう激しくなった川瀬の音に目も冴えて、この夜の嵐に、薫は(山鳥は雄、雌が別々のねぐらに寝るという)山鳥のような一人寝のわびしさを噛みしめながら、切ないお気持で夜をお明しになりました――

「例の明けゆくけはひに、鐘の声などきこゆ。いぎたなくて出で給ふべきけしきもなきよ、と、心やましく、声づくり給ふも、げにあやしきわざなり」
――いつものように、ようやくあたりが明け初める頃、山寺の鐘の音が聞こえてきます。きっと匂宮は、中の君とうち解けて、ぐっすりお寝すみになったらしく、これでは起きて来られるご様子ではないな、と、薫はいらだたしい気持ちで、咳払いなどなさるのも、ほんとうにおかしな成り行きです――

 薫は大君への歌に、

(歌)「しるべせしわれやかへりて惑ふべきこころもゆかぬあけぐれの道」
――ご案内をした私が、却って目的を果たさず迷うなんて。明けゆくほの暗い道に帰らなければならないのでしょうか――

 との返歌に、大君は、

(歌)「かたがたにくらすこころを思ひやれ人やりならぬ道にまどはば」
――わたしの事、妹の事とあれこれ心を暗くしている私の心をお察しください。ご自分から道に迷われたのでしょう。――

 と、ほのかにお答えになります。薫はまだまだ心残りで、

「いかにこよなくへだたりて侍るめれば、いとわりなうこそ」
――なんとまあ、このような厳しい隔たりの障子越しでは、いくら何でも、あまりでございます――

 と、しきりに恨みごとをおっしゃっています。そうこうしていますうちに、夜が明けてくるようです。

◆山鳥の心地して=山鳥は雄雌が別のねぐらに寝るとの俗信がありました。まるで山鳥のような一人寝のわびしさの意。

では12/3に。