永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(115)

2019年03月21日 | 枕草子を読んできて
一〇二  あさましきもの(115) 2019.3.21

 あさましきもの さし櫛みがくほどに、物にさへて折りたる。車のうち返されたる。さるおほのかなる物は、所せう久しくなどやあらむとこそ思ひしか、ただ夢の心地してあさましう、あやなし。
◆◆あまりの意外さにあきれてしまうもの 挿し櫛を磨くうちに、物に突き当たって折ったの。牛車のひっくり返されたの。そんなに物凄く大きな物は、そのままそこにあるだろうと思っていたのが、ただ夢のような気がして、意外で、何がなんだがわからない。◆◆

■さし櫛みがく=飾りとして髪に挿す櫛。つげや象牙で作り木賊(とくさ)で磨く。
■あやなし=「あや」は物事の筋目。筋が通らない。物の道理がわからない。


 人のためにはづかしき事、つつみもなく、ちごも大人も言ひたる。かならず来なむと思ふ人の、待ち明かして、暁がたに、ただいささか忘られて、寝入りたるに、烏のいと近く、かかと鳴くに、うち見開けたれば、昼になりたる、いとあさまし。調半にどう取られたる。むげに知らず見ず聞かぬ事を、人のさし向かひて、あらがはすべくもなく言ひたる。物うちこぼしたるもあさまし。賭弓に、わななくわななく久しうありてはづしたる矢の、もてはなれて、こと方へ行きたる。
◆◆その人の恥ずかしいことを、無遠慮に、子供も大人も言ってるの。必ず来るだろうと思う人が、一晩中待ち明かして、暁の頃にただちょっと忘れて寝てしまって、烏が近くでかあかあと鳴くので、戸を開けて見ると昼になっている、何だかあきれる。双六で調半に相手に筒を取られるの。全く知らず見もせず聞いてもいないことを、人がこちらに向かって、反論の余地もなく言ってるの。物をひっくりかえし、こぼしているのもあきれえる。
賭弓に震え震えて長くかかって射た矢が、的から離れて、別のところに行ってしまってるの。◆◆

■調半(てふばみ)にどう取られたる=双六で二つの賽を振って同じ目のそろって出るのを争う遊び。賽を入れるものを筒(どう)といい、同じ目の時は続いて筒を振る事ができるので、ここでは相手に筒をとられた、の意。
■賭弓(のりゆみ)=射礼(じゃらい)の翌日(正月十八日)弓場殿に天皇が臨幸して左右の近衛府・兵衛府の舎人たちが射を競うのをご覧になる行事。


■平安時代の「双六」 
平安時代を代表する室内遊戯といえば、まず碁でしょう。そしてより庶民的で流行したものに「双六」があります。
囲碁に関しては用具もルールも現代に伝わっていますので、あえて紹介するまでもありませんが、双六は子供のお正月遊び「紙双六」に変化してしまって、平安の遊びとは違うものになってしまい、本当の双六「盤双六」はすたれてしまっています。
 ここでは双六のルールをご紹介して、賭事に使われて何度も禁令が出されたほど平安人が熱中した楽しみを感じていただきたいと思います。
 ただし本当の平安時代のルールというのは実は判っていません。「ぞろ目」である「重五」「朱四」などのさまざまな専門用語が古い記録に残っていますが、それがどういうもので、どういった働きをゲーム中でするのか今では正確なことは不明です。たぶん「ぞろ目が出ればもう一度賽を振れる」ルールであったでしょうが・・・。
ここでは文献に見られるルールの断片と、同じインド発祥のゲームが変化したと言われる西欧の「バックギャモン」から推測したルールをご紹介します。

双六の道具
双六盤、白コマ・黒コマ15ずつ、振り筒、サイコロ2個を用います。
振り筒にサイコロを入れて盤にはっしと打ち付ける姿が絵巻物「長谷雄草紙」に描かれています。双六盤は上下それぞれを12区画に仕切り、中央に分離帯を設けた形で線が引かれています。

ゲームの種類
双六盤をつかったゲームには、「本双六」「柳(つみかえ)」「追い回し」「折り葉」などがあります。どれも基本的なルールは同じ様なもので、自分の色(白か黒)のコマをすべて自分の陣地に入れたら勝ちです。その中でも最も単純なのが「柳(つみかえ)」でしょう。なお先手後手は、それぞれが1個ずつ同時にサイコロを投げて数の多かった者が先手になります。

柳(つみかえ)
 白黒ともに、端の区画に15コマ積み上げ、これをサイコロの数で前進させて、反対側の端の区画にすべて入れれば勝ちです。あまりテクニック性のない単純なゲームで、入門には良いでしょう。

*写真は双六あそび。

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