永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(993)

2011年08月25日 | Weblog
2011. 8/25      993

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(54)

「さすがに、浅はかにもあらぬ御心ばへ有様の、あはれを知らぬにはあらず、さりとて、心交わし顔にあひしらはむも、いとつつましく、いかがはすべからむ、と、よろづに思ひみだれ給ふ」
――中の君としても、さすがに薫の並々ならぬお心尽しの有難さが分からないわけではありません。といって、薫の心の内を知り顔に応対しますのも、なおの事慎まねばならないし、どうしたらよいものかと、あれこれ悩んでいらっしゃいます――

 侍女たちも、多少話相手になりそうな若い者は、みな新参者であり、昔からの馴染の者は、宇治の山荘以来の老女たちで、心を打ち明けて話しあえる人もないままに、亡き姉君を思い出さぬ日とてないのでした。

「おはせましかば、この人もかかる心を添へ給はましや、と、いと悲しく、宮のつらくなり給はむ歎きよりも、このこといと苦しく覚ゆ」
――もし亡き姉君(大君)が生きておられたなら、薫はこのわたしに対してこんな気持ちをお抱きになったであろうか、と、悲しくて、匂宮の宮のつれない作今を歎くよりも、このことが苦しくてお辛いのでした――

「男君もしひて、思ひわびて、例の、しめやかなる夕つ方おはしたり」
――男君(薫)も、どうにも堪えがたくなって、いつものように、しめやかな夕暮れに訪ねておいでになります――

「やがて端に御褥さし出でさせ給ひて、『いとなやましき程にてなむ、え聞こえさせぬ』と、人してきこえ出だし給へるを聞くに、いみじくつらくて、涙のおちぬべきを、人目につつめば、しひてまぎらはして」
――中の君は、侍女に早速簀子(すのこ)にお座布団を出させて、「たいへん気分がわるいものですから、お話申しあげられません」と侍女をとおして申し上げます。薫はそのことをお聞きになると、たまらなく辛くて、涙がこぼれそうになりますのを、女房たちの手前もありますので、強いて紛らわして――

 薫が、

「なやませ給ふをりは、知らぬ僧なども近く参り寄るを、医師などの列にても、御簾のうちにはさぶらふまじくやは。かく人づてなる御消息なむ、かひなき心地する」
――ご病気の折には、見知らぬ僧などもお側近くに参られますのに、私は医師などと同じお扱いで御簾の内に伺候できないものでしょうか。このような取り次ぎを介してのご挨拶では、お伺い申した甲斐がございません――

では8/27に。