永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(988)

2011年08月15日 | Weblog
2011. 8/15      988

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(49)

 匂宮は、

「ともかくも答へ給はぬさへ、、いとねたくて」
――(中の君が)何ともお答えにならないので、なお癪にさわって――

(匂宮の歌)「また人に馴れける袖のうつりがをわが身にしめてうらみつるかな」
――あなたが別の人に親しんで、袖に移し取ったその香を、私は身にしみて恨んでいますよ――

「女は、あさましくのたまひ続くるに、言ふべき方もなきを、『いかがは』とて」
――中の君は、匂宮のあまりのおっしゃりように、言葉の続けようもなくて、「どうしてまあ、そのように」とお思いになって――

(中の君の歌)「みなれぬる中の衣とたのみしをかばかりにてやかけはなれなむ」
――親しみ馴れた間柄とお頼り申していましたのに、こんな移り香くらいのことで、御縁が切れてしまうものでしょうか――

 と、おっしゃりながら泣いているお姿の、なんとも可憐なご様子をみるにつけ、匂宮はやはりこれ以上恨みきれるものではないと、こんどはなだめたりなさっておいでになります。

「これを兄弟などにはあらぬ人のけ近くいひ通ひて、事にふれつつ、おのづから声けはひをも聞き馴れむは、いかでかただにも思はむ、必ずしか覚えぬべきことなるを、と、わがいとくまなき御心ならひに、おぼし知らるれば、常に心をかけて、しるきさまなる文などやある、と、近き御厨子小唐櫃などやうの物をも、さりげなくて、さがし給へど、さる物もなし」
――こんなに美しい人を、兄弟ではない男が側近くで物を言い交わして、何かにつけては自然と声や気配を聞いたり見たりし馴れるならば、どうしてそのままにして過ごせよう、きっと薫も惹かれるに違いない、と、匂宮はご自分の抜け目のない色好みなお心癖から、常々推し量っておられたのでした。そんなわけで、いつも注意深く、なにか証拠になるような御文などがありはしまいかと、そこらの御厨子(みずし)や小唐櫃(こからびつ)のようなものを、それとなくお探しになりますが、そうした物は未だに見つからないのでした――

◆御厨子(みずし)=棚式の物

◆小唐櫃(こからびつ)=小さな箱物

では8/17に。