永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(833)

2011年08月07日 | Weblog
2011. 8/7      984

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(45)

 早朝のまだ薄暗いころに、薫から中の君に御文が届けられました。いつものように表面は気真面目な立て文の形で、
(歌)「いたづらにわけつるみちの露しげみむかしおぼゆる秋の空かな」
――何の甲斐もなく踏み分けた道の露ばかり多く、いたずらに昔過ごした秋の一夜が思い出されます。(折角お側にゆきながら、邪魔が多くてその甲斐がなく……の意)

続けて、

「御けしきの心憂さは、ことわり知らぬつらさのみなむ。きこえさせむ方なく」
――あなたのご態度の冷淡さには、ただもう訳がわかちません。何と申し上げてよいか――
 と、ありました。
中の君は、お返事を差し上げないのも、女房たちが怪しむであろうと、それがたいへん気懸りですので、

「承りぬ。いとなやましくて、え聞こえさせず」
――お文は拝見しました。たいそう気分がすぐれませんので、失礼させていただきます――
 とだけ書かれたのでした。薫はそのお返事をご覧になって、

「あまり言少ななるかな、とさうざうしくて、をかしかりつる御けはひのみ恋しく思ひ出でらる」
――何と短いお返事ではないか、と、物足りなくて、あのあでやかだった中の君のご様子ばかりが恋しく思い出されるのでした――

「すこし世の中をも知り給へるけにや、さばかりあさましくわりなしとは思ひ給へりつるものから、ひたぶるにいぶせくなどはあらで、いとらうらうじくはづかしげなるけしきも添ひて、さすがになつかしく言ひこしらへなどして、出だし給へる程の心ばへなどを思ひ出づるも、ねたく悲しく、さまざまに心にかかりて、わびしく覚ゆ」
――(中の君は)少しは男女間のこともお分かりになったせいか、あれほど薫の行動を呆れてひどいとはお思いになっていたものの、一途に疎ましい素振りもお見せにならず、たいそう落ち着いてやさしく言葉をつくろいなどして、自分を帰されたご様子などを思い出すにつけても、忌々しくも悲しくて、あれこれと忘れることができず、苦しくてならない――

では8/9に。