永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(981)

2011年08月01日 | Weblog
2011. 8/1      981

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(42)

「女、さりや、あな心憂、と思ふに、何事かは言はれむ、物も言はで、いとと引き入り給へは、それに附きていと馴れ顔に、半らは内に入りて添ひ臥し給へり」
――中の君は、やはりそういうおつもりだったのか、何て厭な、とお思いになりますが、あまりにも情けなく何の言葉が出ましょう、物もおっしゃらず奥へお入りになりますと、それにつれて、薫は馴れ馴れしげに半身は内に入って、女君の傍に添い臥してしまわれました――

 薫が、

「あらずや。忍びてはよかるべく思すこともありけるがうれしきは、ひがみみか、ときこえさせむとぞ。うとうとしく思すべきにもあらぬを、心憂の御けしきや」
――そういうおつもりではなかったのでしょうか。人目を忍んでならばよいように仰せられましたので、嬉しゅうございましたが、それとも聞き違いだったのかどうかをお伺いしたくて、入って参ったのです。わたしを他人行儀によそよそしくお扱いになれる筈もございませんでしょう。随分なお仕打ちですね――

 とお恨みになりますが、中の君はお返事をなさる気にもなれず、あまりのことに疎ましくなってこられるのを、やっとこらえて、

「思ひの外なりける御心の程かな。人の思ふらむ事よ。あさまし」
――思いもよらぬお心でいらっしゃいますね。女房たちが何と思いますやら。困ったことを――

 とたしなめて、泣きそうにしていらっしゃる。薫はそれはたしかに尤もだとは思いもし、お気の毒とも思いながらも、

「これはとがあるばかりのことかは。かばかりの対面は、いにしへをも思し出でよかし。過ぎにし人の御ゆるしもありしものを、いとこよなく思しけるこそ、なかなかうたてあれ。すきずきしくめざましき心はあらじ、と、心やすくおぼせ」
――これほどのことで、何をお咎めになるのです。これくらいの対面ならば、あの昔の宇治の一夜を思い出してください。亡き御方(大君)のお許しもありましたのに。あなたが私と逢う事をとんでもないことに思っておられたとは、かえって恨めしゅうございます。私は色めかしく不埒な振る舞いなど決してしませんので、ご安心ください――

 と、くどくどとおっしゃる。

「いとのどやかはもてなし給へれど、月頃くやしと思ひわたる心のうちの、苦しきまでなりゆくさまを、つくづくと言ひつづけ給ひて、ゆるすべきけしきにもあらぬに、せむかたなく、いみじとも世の常なり」
――(薫は)強いて落ち着いた態度を崩さずにはいらっしゃるけれども、この幾月も、この中の君を他人のものにしてしまった悔しい胸の思いの、今はもう我慢できない気持ちのいきさつを、途切れることなく言い続けられ、いっこうにお袖を放す気配もないので、中の君はどうしようもない困ったことだと思われても、このような成り行きは男女の当たり前の表現でしかありませんよ――

では8/3に。