永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(989)

2011年08月17日 | Weblog
2011. 8/17      989

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(50)

 匂宮は、日頃からなにやら怪しいと、折に触れ証拠になりそうな物をお探しになっていて、

「ただいとすくよかに言ずくなにて、なほなほしきなどぞ、わざともなけれど、物にとりまぜしてもあるを、あやし、なほいとかうのみはあらじかし、と疑はるるには、いとど今日は安からずおぼさるる、ことわりなりかし」
――ただ、ごく正真面目で、ありふれた御文などが、大事そうにでもなく、無造作に置かれてあったりしましたのを、「おかしいな、そんな筈はあるまい」と疑っていましたところ、今日のようなことがありました訳で、いっそう不安をお覚えになったとしても、まあ無理のないことでしょう――

「かの人のけしきも、心あらむ女の、あはれと思ひぬべきを、などてかは、ことの外にはさしはなたむ、いとよきあはひなれば、かたみにぞ思ひかはすらむかし、と思ひやるぞ、わびしく腹立たしくねたかりける。なほいと安からざりければ、その日もえ出で給はず」
――(匂宮はお心のなかで)かの人(薫)の姿、ご容貌などの見事さは、少しでも情趣のわかる女なら心を動かされずにはいられまい。何で中の君が拒絶などしようか。あの二人はよく似合っている間柄だから、お互いに思いを交わしあうだろうよ、と想像なさると、にわかにやるせなく、腹立たしく、また、妬ましいのでした。そして、どうしてもお心が収まらないので、この日も中の君の二条院からお出ましにならないのでした――

「六条の院には、御文をぞ二度三度たてまつれ給ふを、『いつの程につもる御言の葉ならむ』とつぶやく老人どもあり」
――(匂宮は)六条の院の六の君に御文を二度も三度も差し上げます様子に、「いつの間にああもお言葉が積もるのかしら」と、そのことで呟く老女房もいるのでした――

 さて、

「中納言の君は、かく宮のこもりおはするを聞くにも、心やましく覚ゆれど、わりなしや、これはわが心のをこがましく悪しきぞかし、うしろやすく、と思ひそめてしあたりのことを、かくは思ふべしや、と、しひてぞ思ひかへして、さは言へどえ思し棄てざめりかし、と、うれしくもあり」
――中納言の君(薫)は、こうして匂宮が二条院の中の君のところに籠っていらっしゃるとお聞きになりますにつけても、妬ましい気がしますが、仕方がない、これは自分の心が馬鹿げていて良くないのだから、御後見のつもりでお世話しはじめた中の君のことを、こんな風に慕ってよいものか、と、強いて反省しては、そうかと言って、匂宮が中の君を決してお思い棄てにはならない筈だともお思いになり、それは喜ばしいこととも思うのでした――

◆さは言へどえ思し棄てざめりかし=さ・は言へど・え・思し棄て・ざめり・かし=そうはいっても、まさか思い棄てになることはないでしょう。

では8/19に。