永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(429)

2009年06月28日 | Weblog
09.6/28   429回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(38)

 夜になって楽人たちは退出しました。紫の上付きの別当が下人を指図して、唐櫃から禄を一人一人にお渡しになります。やがて管弦のお遊びがはじまり、それはそれは趣深いものです。

「御琴どもは、東宮よりぞととのへさせ給ひける。朱雀院よりわたり参れる琵琶、琴、内裏よりたまはり給へる筝の御琴など、皆むかし覚えたるものの音どもにて、珍しく掻きあはせ給へるに、何の折にも過ぎにし方の御有様、内裏わたりなど思し出でらる」
――楽器の類は主に東宮のほうでお揃えになってくださいました。朱雀院からお譲り受けになった琵琶、琴、今の帝から賜りました筝の御琴など、みな源氏には昔を思いだされる楽器ばかりで、久しぶりにご一緒に掻き合わせなさると、何の音色にも過ぎ去った昔の有様、御所あたりのことなどが彷彿と思い出されるのでした――

「故入道の宮おはせしかば、かかる御賀など、我こそ進み仕う奉らましか、何事につけてかは、志をも見え奉りけむ、と飽かずくちをしくのみ思ひ出で聞こえ給ふ」
――(源氏は)亡き藤壺中宮が御在世中ならば、こうした賀宴などは、自分こそ進んで御奉仕しようものを、いったい御在世中、自分は何によって中宮に真心をお見せしたというのだろうか、と、いつまでも口惜しくのみ思い出されるのでした。―-―

 内裏では、冷泉帝がしみじみと亡き御母の藤壺中宮を偲ばれ、せめて源氏だけにでも御父への礼を尽くしたいと、今回も六条院へ行幸の意をお伝えになりましたが、源氏は、世人の迷惑になることは決してなさらぬようにとお止め申されます。

 十二月の二十日頃に、秋好中宮が内裏を御退出なさって、源氏のための四十の賀として、奈良の都の七大寺に、御誦経、布四千段、四十の寺に絹四百疋をご布施としてお納めになりました。秋好中宮は、

「あり難き御はぐくみを思し知りながら、何事につけてか、ふかき御志をもあらはし御覧ぜさせ給はむとて、父宮母御息所のおはせまし御為の志をも取り添へ思すに(……)」
――源氏の御養育のご恩はお分かりでありながら、この機を外しては何によって誠意をお示しできようかと、亡き御両親が御在世でありましたら、きっとなさるに違いない感謝の志を加えたいとお考えになっておりましたが、(源氏が帝にさへご辞退申し上げてのことですので、中宮はご計画の大部分をお取り止めになったのでした)――

◆写真:お祝いを受ける源氏 倚子(いし)に座っている。風俗博物館

ではまた。