永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(428)

2009年06月27日 | Weblog
09.6/27   428回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(37)

「舞台の左右に、楽人の平張うちて、西東に屯食八十具、禄の唐櫃四十づつ続けて立てり」
――設えた舞台の左右に樂人の為の平張を造り、西東に屯食(とんじき)八十具、禄(ろく)の唐櫃四十づつを並べ立ててあります――

 午後二時ごろ樂人が参り、万歳楽、皇じょうなど舞って、日暮れの頃になって高麗楽で急調子とともに、落蹲(らくそん)が舞われました。

 舞が果てる頃、

「権中納言、衛門の督おりて、入綾をほのかに舞ひて、紅葉の陰に入りぬる名残、飽かず興ありと人々思したり」
――夕霧と柏木が庭上に下りて、入綾(いりあや=舞楽の引き入り際に、更に舞う手)をほんの一くさり爽やかに舞われて、紅葉の陰に隠れて行ったそのあとには、名残惜しさと、面白さが人々の心に残ったのでした――

 亡き桐壷帝が朱雀院に行幸の折、源氏と頭の中将(現太政大臣)が青海波(せいがいは)を舞われた夕べのことを思い出された人々は、

「権中納言、衛門の督の、またおとらず立ち続き給ひにける、世々のおぼえありさま、容貌用意などもをさをさおとらず、官位はやや進みてさへこそなど、齢の程をも数えて、なほさるべきにて、昔よりかくたち続きたる御仲らひなりけり」
――夕霧も柏木も、父君達に劣らず並び立たれたそのご様子は、世人の信望、ご容姿、御態度などもほとんど父君たちに劣らず、官位はそれより少し進んでさえおられるなどと、年齢の具合まで数えては、やはり前世からの因縁で、両家は昔からこのように並び立っている間柄なのだ――

 と、感心しています。源氏も感慨深く涙ぐまれて、昔のあのことこのことの思い出が尽きないご様子です。

◆写真:寝殿の前に設えられた楽舞台  風俗博物館

ではまた。



源氏物語を読んできて(屯食)

2009年06月27日 | Weblog
 屯食(とんじき)というのは、甑(こしき)で蒸した強飯を握り固めて卵形にし、折敷に載せたものです。宮中や貴族の宴会において庭に用意され、下人らに振舞われました。いずれも主催者または後援者が非常に力を入れた盛大な儀式である点が注意されます。

 食膳が庭に用意されるということは、取りも直さず身分の低い者は建物の中には上がれないことを意味しており、この時代のはっきりとした身分秩序が感じられますが、下人の食膳のことまで書き記すというのは、宴の主催者の行き届いた配慮や、身分の高い者も低い者も残らず列席した宴の盛大さを表現しているのかもしれません。

 そして80という数は、40の倍数で揃えたものです。

◆参考・写真 風俗博物館

源氏物語を読んできて(舞・入り綾)

2009年06月27日 | Weblog
舞・入り綾(いりあや)

 入綾(いりあや)を舞う夕霧と柏木です。入綾というのは、本来は左方の舞で、舞の終了後に当曲(最終楽章)を重ねて演奏する中を舞人達が中央に縦列になって順次退出していく作法のことを指しますが、単に舞の終了後も奏楽を続けてその中を退場するのも「入綾」と呼ぶ場合があります。

 落蹲(らくそん)は右方舞ですので、ここでの入綾は後者の方でしょう。

◆参考・写真 :風俗博物館