永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(360)

2009年04月18日 | Weblog
09.4/18   360回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(31)

 源氏は、髭黒の大将からのお文に、なかなか風流な冗談を言うものよ、とお思いになるものの、お心の中では、

「かく領じたるを、いと憎しと思す」
――玉鬘を独り占めしているのを、憎らしいと思っていらっしゃる――

さて、以前の北の方は、

「月日隔たるままに、あさましと物を思ひ沈み、いよいよ呆け痴れてものし給ふ。大将殿の大方のとぶらひ、何事をも委しう思し掟て(……)」
――月日が経ちますうちに、とんでもない事の成り行きに思い沈まれて、いよいよ気が狂おしくなっていらっしゃる。大将は一通りのお世話は引き続きなさって、(お子様たちを変わらず大事にしておられますので、二人の間がまったく縁がなくなったということもなく、北の方は生活の面倒を見てもらっていらっしゃる)――

 髭黒の大将は姫君(真木柱)を耐えられないほど恋しく思っておられますが、式部卿の宮は決してお逢わせになりません。真木柱は、

「若い心の中に、この父君を、誰も誰もゆるしなううらみ聞こえて、いよいよ隔て給ふ事のみまされば、心細く悲しきに」
――(真木柱は)少女心にも、この父君を、誰も皆容赦なくお恨みして、ご自分との間をいっそう隔ててしまわれますので、心細く悲しいのでした――

 しかし、弟君たちは父邸からこちらへ来ては、尚侍の君のことなど、自然に話題にしますには、

「まろらをも、らうたくなつかしうなむし給ふ。明け暮れをかしき事を好みて、ものし給ふ」
――(玉鬘の君は)私たちをも可愛がって、優しくしてくださいます。一日中風流なことを好んで楽しく暮らしていらっしゃいます――

 などとお聞きになりますと、真木柱は羨ましく、

「かやうにても安らかにふるまふ身ならざりけむを歎き給ふ。あやしう、男女につけつつ、人に物を思はする尚侍の君にぞおはしける」
――このように自由に振舞える男の身に、どうして生まれて来なかったのかと、嘆いていらっしゃる。不思議に男にも女にも気を揉ませる玉鬘でいらっしゃいますこと。――

ではまた。