永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(358)

2009年04月16日 | Weblog
09.4/16   358回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(29)

冷泉帝も、あの日の玉鬘をお忘れになれず、ときどきお文をお届けになりますが、玉鬘は、

「身を憂きものに思ひしみ給ひて、かやうのすさび事をもあいなく思しければ、心とけたる御答も聞こえ給はず」
――何と自分は憂きものと、しみじみ思われて、このような戯れめいたお文の贈答など、味気なく思われて、型どおりのお返事だけで、打ち解けたご返事などはなさらない――

「なほかのあり難かりし御心掟を方々につけて思ひしみ給へる御事ぞ、忘られざりける」
――やはりあの六条の源氏の、世にもあり難いお心むけが、何かにつけてお心に沁みて忘れられないのでした――

 三月になって、源氏は、六条院のお庭に藤や山吹が咲き染めますのをご覧になりますにつけても、玉鬘を思い出されて、紫の上の御殿は捨てておいて、かつての玉鬘のお部屋にお渡になって、呉竹のませ垣に自然に咲きこぼれる山吹の艶やかな色を、まことに趣深く思われて、歌

「おもはずに堰手(ゐで)のなか道へだつともいはでぞこふる山吹の花」
――思いがけず二人の間は隔たったが、私は口には出さずあなたを恋慕っています――

 と、詠まれますが聞いてくれる人とてありません。こうして源氏は玉鬘が今度こそ本当に離れてしまったのだと思い知らされたのでした。

「げにあやしき御心のすさびなりや」
――まことに怪しいお心癖でありますこと――

◆写真:山吹

ではまた。