永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(350)

2009年04月08日 | Weblog
09.4/8   350回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(21)

 髭黒の大将が訪ねて来ましたが、もちろん、北の方はお会いになる筈もありません。式部卿の宮も北の方に、

「『何か。ただ時に移る心の、今はじめてかはり給ふにもあらず。年頃思ひうかれ給ふさま聞き渡りても、久しくなりぬるを、いづくをまた思ひ直るべき折りとか待たむ。いとどひがひがしきさまのみこそ見えはて給はめ』といさめ申し給ふ、道理なり」
――「何の、髭黒が時勢におもねる心は今更変わるわけもない。玉鬘にうつつをぬかしておられると聞いてから久しいのに、いつまで待ったからといって、浮気がなおる当てなどない。連れ添えば連れ添う程、そなたの持病を見苦しく見られるばかりの一生となるのですよ」とお諫めになって、髭黒大将にお会いになることをお止めになります。無理もないことです――

 大将は、

「いと若々しき心地もし侍るかな。思ほし棄つまじき人々も侍ればと、のどかに思ひ侍りける心のおこたりを、返す返す聞こえてもやるかたなし。」
――(突然実家に帰るなど)大人げないお仕打ちだと思います。子供たちもいることではあり、まさかお見捨てになるまいとのんびりしていました私のいたらなさを返す返すお詫びいたします――

「今はただなだらかにご覧じゆるして、罪さり所なう、世の人にもことわらせてこそ、かやうにももてない給はめ」
――こうなりました今は、ただ穏やかにお見逃ごしくださって、世間の人々がこうなったからには別れていくのも仕方がない、というところまで待ってくださってから、このような処置を取ってくださってはと思いますが――

 などと、お取次の者に対しても、申し訳に困っていらっしゃる。せめて姫君にでも会いたいとおっしゃるけれど、お顔をお見せするどころではない。髭黒のご長男は十歳で殿上童(てんじょうわらわ)を賢く立派にされて、人にも褒められていらっしゃる。次男は八歳くらいで、まだあどけなく、姫君に似ていらっしゃるので、髭黒の大将は頭をなでながら、

「あこをこそは、恋しき御形見にも見るべかめれ」
――お前を、なつかしい姫君(真木柱)の形見にして見ていようかね――

 と、泣いておられます。そして、再度、是非とも式部卿の宮にお目にかかりたいと申し上げますが、

「風おこりてためらひ侍る程にて」
――風邪を引いて養生しておりますので――

 と、素っ気なく仰せになられましたので、大将はきまり悪い思いで、男のお子二人を連れて帰って行かれました。

◆ひがひがしきさま=ひねくれている、素直でない。

◆若々しき心地=若くて世間知らず、幼稚な。

ではまた。