永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(366)

2009年04月24日 | Weblog
09.4/24   366回

三十二帖【梅枝(うめがえ)の巻】 その(5)

 「蔵人所の方にも、明日の御遊びのうちならしに、御琴どもの装束などして、殿上人などあまた参りて、をかしき笛の音ども聞ゆ」
――蔵人所(くろうどどころ=宮中に模した六条院内の詰所)の方でも、明日の管弦のお遊びの練習に、楽器類の手入れなどなさって、殿上人たちが大勢集まって、笛の音など面白く聞こえてきます――

 内大臣家の柏木中将と弁の少将が参上のご挨拶だけで退出なさるところを、源氏はお引き留めになって、御琴などをご用意させて、

「宮の御前に琵琶、大臣に筝の御琴まゐりて、頭の中将和琴たまはりて、はなやかに掻きたてたる程、いとおもしろく聞こゆ。宰相の中将横笛ふき給ふ。折にあひたる調子、雲井とほるばかり吹きたてたり。弁の少将拍子とりて、「梅枝」いだしたる程いとをかし」
――蛍兵部卿の宮の御前には琵琶、源氏には筝の事を差し上げ、頭の中将(柏木)は和琴を承ってはなやかに奏でられますのが、たいそう面白く聞こえます。夕霧は横笛を御吹きになります。弁の少将(柏木の弟)は拍子を取って、催馬楽の「梅が枝」を謡い出された様子もなかなか趣があります――

 この夜は改まった催しではありませんが、なかなか風流なお遊びでした。蛍兵部卿の宮から源氏に盃をおさしになって、その折に歌を一首、源氏もお返しに歌を一首というように、順次盃を回されて、鶯、梅、霞、風を織り込んだ歌が歌われたのでした。

 宮への贈り物に、

「みづからの御料の直衣の御よそひ一領、手ふれ給はぬ薫物二壺そへて、御車にたてまつらせたまふ。……つぎつぎの君たちにも、ことごとしからぬさまに、細長小袿などかづけ給ふ」
――源氏ご自身の御直衣一揃いに、まだ手も触れていない薫物二壺を添えられて、御車の中にお入れ申し上げます。……柏木や弁の少将以下の人々にも、あまり目立たないように、女ものの細長や小袿などを贈られました――

さて、

「かくて西の御殿に、戌の時に渡り給ふ」
――翌日二月十一日、源氏は西の対の中宮の御殿に、午後八時ごろお渡りになりました――

 西の対に造られた放出(はなちで)を、御裳著のために飾り立てて、紫の上もお出でになり、たくさんの女房たちでいっぱいです。

「子の時に御裳たてまつる。大殿油(おほとなぶら)ほのかなれど、御けはひいとめでたし、と宮は見奉り給ふ」
――(明石の姫君は)午後十二時頃に御裳を着られます。大殿油(おほとなぶら)の灯は仄かですが、(腰結役の)秋好中宮は姫君のご様子をまことにお美しいとご覧になります――

◆催馬楽の「梅が枝」=むめがえに(梅が枝に)来ゐる鶯や 春かけて はれ 春かけて 鳴けどもいまだや 雪は降りつつ あはれ そこよしや 雪は降りつつ

◆写真:裳著の前の源氏と明石の姫君

ではまた。