ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

物言う魚 第1回<海霊ヨナタマと津波>

2014-12-02 | Weblog
季刊Eマガジン「Lapiz」(ラピス)は良記事満載。写真や図版も多く興味深い雑誌です。有料ですがわずか300円。このたび冬号が発行されましたが、例によってまた寄稿しました。6回に分けて転載します。人間と話しをする魚とは何か?


 江戸時代、明和8年3月10日(1771年)に「八重山地震津波/先島諸島地震」が起き、八重山・宮古列島に巨大津波が襲来した。石垣島宮良では波高が85.4m、白保では60mに達し、同島では住民の約半数の8300人が溺死したと記録されている。宮古諸島では2500人が水死。総死者は1万2千人にのぼったと伝えられている。85m余の波高は、日本列島で最も高い記録である。
 柳田國男に「物言ふ魚」という、昭和7年に発表された一文がある。このなかで彼は、『宮古島舊史』を紹介している。寛延元年に出た本だが柳田は、この本をまったく知らないひとが多いという。現代語に改め紹介する。

 むかし伊良部(いらぶ)島に下地(しもぢ)という村があった。ある男が漁に出て、「ヨナタマ」という魚を釣った。この魚は人面魚体で、よく物を言う魚であった。漁師は思った。このように珍しい魚であるので、明日仲間を集めてみなで食しようと思い、炭をおこして炙りこに乗せて乾かした。その夜、下地の村民がみな寝静まって後、隣の家の幼い子がにわかに泣きだした。母の実家のある伊良部村に帰ると泣き叫んでいる。夜中なので母親はいろいろすかせたが、一向に泣きやまない。泣き叫ぶことはいよいよ激しくなった。母はなすすべもなく、子を抱いて外に出たが、幼児は母にひしと抱きついてわななき震えている。母はあまりにも変だと思いだしたところ、はるか沖から声が聞こえてきた。
 「ヨナタマ、ヨナタマ。なぜ帰りが遅いのか」
と言う。隣家で乾かされていたヨナタマは言った。
 「われは今、あら炭のうえに乗せられ、いぶり乾かされてもう半夜がたった。早く犀(さい)を遣って迎えさせよ」
と。これを聞いて母子は身の毛よだって、急いで伊良部村に帰った。なぜこのような夜遅くに帰って来たか、と伊良部の村人は聞いた。母はしかじかと答えて、翌朝に下地村へ帰ったところ、村中残らず洗い尽くされてしまっていた。今に至ってその村の跡かたはあるが、村民はだれも住んでいない。この母子にはいかなる陰徳があったのであろうか。このような急難を奇特に逃れるというのは、珍しいことである。

 これに類した伝説昔話は、宮古と八重山列島には数多く残っている。物を言う「霊魚」ヨナタマを害しようとした者たちが、大津波によって罰せられ、魚を放そうとした者は助命される。そのような話が多い。
 ところでヨナタマだが、「ヨナ」はイナ、ウナともいうが、「海」を意味する古語だそうだ。「タマ」は「魂」「霊」であり、ヨナタマは「海霊」を意味する。ヨナタマは、海の神の分身あるいは眷族であろうと柳田はいう。犀は動物の「サイ」だが、「災」あるいは「境」サイ・サエであろうか。
 似た伝説昔話は、先島諸島に数多く残っているが、日本列島各地にも残滓がみられる。また世界各地でも確認されており、なかでも南太平洋の島々や、東南アジアの島嶼部でいまも語られている。柳田はそのように記している。
<2014年12月2日 南浦邦仁>

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2 コメント

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先島漫遊 (職人太郎)
2014-12-02 09:59:44
来年1月に行く予定です。沖縄本島も仕事や観光も含めて数十回も訪れていますので、カーナビもほとんど必要ありません。
今回は竹富島、小浜島に滞在する予定ですが、竹富には星野リゾートの大きな施設ができたので、正直あまり長居はしたくありません。かつて地元の民宿に泊まり、町立竹富小中学校の修復工事をしたころは、のんびりとしたものでした。
それと、たしかに津波は怖いと思います。なにせ小さい島ですから高台というものがありませんから、大地震が来たら死を覚悟しなければなりません。
まあ、それでも自己責任で行くつもりですw
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大津波 (さんろく)
2014-12-02 11:29:39
コメント、いつもありがとうございます。
現代技術では低地での津波避難には、シェルターやカプセルですが、太古は方舟・箱舟、そして大型の瓢箪だったりするようですね。やっぱり箱型の木造舟を準備されてはどうでしょうか、と思ったりしています。今回の連載では、浮遊しての延命についてあれこれ書きました。ご笑覧ください。
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