ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

本を買わない学者たち

2012-10-06 | Weblog
 まじめな本が売れない。固い本、難解な本、いい本、後世に残る本、それらがどれも売れない。さらにはマンガ本も、ふつうの雑誌も、一般読み物も売れない。
 そのような話しは耳にタコができるほど、これまで聞きまた経験してきました。ただ次の話しには驚きます。小田光雄さんがホームページ「出版状況クロニクル53(2012年9月1日~9月30日)」で紹介しておられます。出版・本の業界に興味ある方にはおすすめのホームページです。毎月初に更新されます。

○小田光雄「出版状況クロニクル 53 (2012年9月1日~9月30日)」
 岩田書院の「新刊ニュースの裏だより」のNo.763(2012年8月)に「だれも買わない」との一文が掲載されていた。
 それによれば、『都市民俗基本論文集』全4巻が完結したので、全執筆者に自らの論文が入っていない他の巻を買ってくれませんかという案内を出したところ、「誰からも注文が来ない」「執筆者は、その分野の研究者であるはずなんだが、それでも『0』である」。そして岩田書院の社長は呟いている。「うーん。こういう著者を相手に、本を作って、売っていかなくてはならなかったのか……。」と。
 『都市民俗基本論文集』は定価も高く、著者割引でも一冊1万円を超えている。だがそれでも執筆者は100人近くいるにもかかわらず、1冊も注文がないとは驚くべきことのようだが、研究者が本を買わないのはもはや当たり前と考えていいかもしれない。大学図書館とコピーですませる習慣が常態化しているのではないだろうか。

 岩田書院のホームページに「新刊ニュースの裏だより」バックナンバー欄がありました。転載させていただきます。なおこの論文集は昨年に完結していますが、京都市立にも府立図書館にも入っていません。全国の大学図書館で所蔵しているのはわずか50館ほどのようです。いったい何冊売れたのでしょうか? 秋の冷え込みか、背筋が寒くなりました。

○岩田博「だれも買わない」新刊ニュースの裏だよりNo.763(2012年8月)
 以前この「裏だより」で、執筆者が買わなくて誰が買うのよ、と書いたことがある→【売れると思ってる?】(※後に原文を転載しています)。今回『都市民俗基本論文集』全4巻の完結にあたって、執筆者に割引販売の案内を出した。このシリーズは、既発表論文を再録したものなので、執筆者には再録巻を1冊献本するだけでご了解いただいている。ということは、再録された巻以外の巻は、持っていない、ということになる。
 そこで、完結を機に、他の巻を買ってくれませんか、という案内を全執筆者に出したのだが、なんと注文はナシ。本当に 誰からも注文が来ない。1冊18800円+税だが、執筆者割引で3割引。執筆者は、その分野の研究者であるはずなんだが、それでも「0」である。
 う~ん。こういう著者を相手に、本を作って、売っていかなくてはならないのか…。
 あ、いかん いかん。最近、すぐ毒づくようになってきたな。
 でも考えてみたら、執筆者のなかには、企画から完結までのあいだに、何人か亡くなった方もいたくらいだから、期待するほうが、そもそも いけないのか?。
 出版の基本は、やはり自分で買いたいと思うような本を作る、ということですね。それは、出版社(編集者)はもちろん、著者にも問われていることです。自分が出版した本(書いた本)を 買いたいと思ってくれるか?。1000人とは言わない、300人でいい。その顔が見えるか?。見えない?、じゃ、やめようか…。 

○岩田博「売れると思ってる?」新刊ニュースの裏だより№638 2010年8月
 出版社の社長の発言としては如何なものか、という気がしますが、言ってしまおう。
 ここのところ「記念論集」を何冊か作っていますが、売れません。先生の古稀や退職を記念して、教え子たちが、お世話になった先生に献呈する論文集のことです。こういった習慣は、いつ頃からできたんだろうか。以前にも書いたと思いますが、「先生のお蔭で、こういった論文を書けるまでになりました、ありがとうございました」といって先生に献呈するのが基本型。したがって編者は「○○先生○○記念論集刊行会」が本来の形ですが、それだと売れないので、出版社側の要望で、お祝いされるべき先生を編者にして刊行する場合が多くなってきています。
 刊行の趣旨がそうだから、集まった論文のテーマは、いろいろ。書名をつけるのに苦労します。「~の諸問題」「~の新展開」「~の視座」「~論叢」などなど。でも、考えたところで、内容が変わるわけではない。
 ここで、当の執筆者に問いたい、貴方はこの本を買いたいと思いますか?、と。これって、とっても大事なことだと思うのですよ。自分が買いたいと思わない本が、売れるわけないですよね。でも、そういう本を出したいのなら、それを売るところまで責任を感じてほしいわけですよ。出版すると決めたのは私(岩田書院)なんだから、売れない責任を「とる」のは私で、これは仕方のないことです(すみません、言い換えます。「仕方がない」ではなくて、「当然です」というべきなんでしょうね…。でも 気持ちとしては「仕方がない」)。
<2012年10月6日>
コメント (5)
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