ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

津波の歴史 7 詩「津波てんでんこ」

2011-04-29 | Weblog
 三陸の海岸には、「津波てんでんこ」という言葉があるそうです。意味は、津波が来たら「てんでんばらばらに逃げろ」。家族親子も祖父母も、近所の爺さんも婆さんも、みな放って逃げろ! 自分の命だけを、自分の責任で守れ。家族同様の犬も猫たちにも構わずに。そういう教えだそうです。大津波に呑み込まれず助かるには、高台にひとりで走って逃げるしかないという。
 しかし、冷酷残酷です。布団に寝た切りの老いた母を捨てて、自分だけ高所に逃げられますか。幼い子どもや孫を見殺しにできますか? あまりにつらい教えです。
 もしも家族で自分ひとりだけが助かったとしても、共同体は決して生き残った個人を責めない。不文律だそうです。三陸ではそう伝承しているといいます。

 京都府八幡市在住の小笠原信さんから、詩のコピーをいただきました。400字原稿用紙に手書きされたもののコピーです。タイトルは『津波から にげろ!』。副題は「率先して 逃げろーー“津波てんでんこ”」。また、「実学としての詩の再興を願って」とあります。紹介します。

(1)
にげろ
ニゲロ
逃げろ
まず にげろ
TUNAMI から逃げろ
Run to High Ground!
何をしていても 放ってにげろ
「つなみ!」と聞いたら、ただちに、即にげろ
“てんでんこ”各自てんでに
ばらばらでいいから、高い所に 逃げろ
母をおいて 父をおいて 子を置いて
いまの自分のまま 逃げろ
じっちゃん ばっちゃんに「にげてね!」と言って
友だちに「にげよう!」と一声かけて
恋人に構わず
ペットを放ち
牛馬を置いて
断腸の腸で 脱兎のごとく
 無情に 無慈悲に
 非情な人になって
まず 自分だけで 逃げろ!
逃げるが勝ちの 大競争
 津波は秒速10m 早い 早い
 だから 逃げ遅れは 命取り

(2)
年寄りの「大地震!」という大声を聞いたら
老漁夫の「津波!」という叫びを聞いたら
「緊急 地震・津波速報」を聞いたら 見たら
誰かが 津波!と逃げていたら
その人を追って
 オオカミ少年を追って
高台へ 高地へ 最上階へ 屋上へ 山の方へ
浮輪へ ゴムボートへ
逃げろ 後ろをふり向かず 一目散に
 十字路で立ち止まるな
 想定より 直感を信じて
 高所を目指して 逃げろ!
転がるように 駿馬となって 逃げろ!
 ビートルズを聞いていても 甘い物を食べていても
 小便をしていても 交りの途中でも
  パンツ一丁で逃げろ

皆から 非難ゴウゴウと思っても
“津波てんでんこ”を呪文にして
父母 兄弟 子供達を 信じて

皆を 信じて 逃げろ
「言い伝え」を 信じて にげてくれ
 点呼など とるな!
 整列など するな!
みんなが それぞれ
 それぞれの場所から 逃げのびれば
それは 皆がみんな助かること!
 自ら助かるものが みんな助かる
  自助こそ 共助!

(3)
皆で助かろうと思って
誰かを さがしに 行くな!
誰かを 連れ出しに 戻るな!
 それは誤解 美しい誤解
 間違った夢だ 感傷です
 にせヒューマニズムです
 結局 皆の生き延びる思いを 思想を
  信頼していないのだからーー

「人でなし! 冷たい奴!」と ののしられても
「卑怯者!」という ヤイバを背に受けても
 振り向くな 応戦するな
「薄情者! 臆病者! 偽善者!」と 罵声を浴びても
しかし 逆接だ 逆説だ
――人生は 逆接続詞を生きることと心得て
 花は 来年 見ればよいと
非情の者になって 逃げよ!
非常事態のただ中を 逃げ延びる
それが 皆が助かること
それこそ 皆が 落ち合えること

(4)
生き延びること
自分の命は 自分で守ること

 この場で この人と この介護中の人と死ぬという
  覚悟をつけた人以外のひとは
 「私だけ生き延びて 悪いのですがーー
 長い間 ありがとう 充分なこと出来ず
  ゴメンナサイ またアトデ」と
   暇乞いをしてーー
 「もし ぼくが 助かったら 生きてたら
  還りには みんな 助けに くるからね!」と呼んで
猛スピードで 逃げる
 その人は きっときっと 判ってくれる!
 あなたの心に 帰って来てくれる!

ハンコも 通帳も 家族写真も
位牌も遺影も 「遺言書」も パスポートも
ラブレターも 免許証も
愛読書も 愛馬も いとおしい犬猫も
文鳥も 地球儀も
皆 みーんな置き捨て そのままに

大急ぎで 韋駄天シューズはいて
高台へ 高地へ 山の方へ

 陸奥の方々 相馬藩の方々 会津藩の皆様
 蝦夷 奥羽の方々 義経・常陸坊ご一行
 奥州 東北の方々 表日本の人々も
「御免 お先に!」と 逃げてくだされ

高サ 25mの大滝が 腹黒い大瀑布が
横一線の大津波が
ガラガラ ゴウゴウ バリバリと
千匹の 原爆ゴリラのように
襲ってくる!

(5)
自分の生命だけ 脚に乗せ
 ガクガクしても バクバクしても
思いだけは 抱きかかえて
津波の速さに 勝って にげろ
Run Away !
はしれ 走り続けよ
のぼれ 登り続けよ
 この詩を置いて 避難せよ!
生き延びて 皆を想い出すため 逃げろ
生き延びて いのちをつなぐため 逃げよ!

  高台へ
 高地へ
空へ
懸命に にげろ!

 小笠原さんは、新聞記事「釜石の子を救った教え」(4月10日共同通信配信)を読み、群馬大学の片田敏孝教授(災害社会工学)の防災教育に感銘を受けた。そして「賛同し、連帯したいとの思いで(この詩稿は)出来た。深く感謝します」と彼は結んでおられます。次回ブログで新聞記事を紹介しようと思っています。
 なおこの詩の転用、書き換えなど、ご自由にとのこと。
<2011年4月29日>

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