ふろむ播州山麓

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津波の歴史 3 「東電の想定外」

2011-04-20 | Weblog
 東京電力は4月9日、東日本大震災で福島第1原子力発電所を14~15mの津波が襲ったことを明らかにした。海面より10mの高台に設置された1号機から4号機までの原子炉建屋やタービン建屋を含む主要建物エリアのほぼ全域で高さ4~5mまで浸水しており、その状況などから判断したという。
 同社は、土木学会の津波の評価指針に基づいて津波の高さを想定していたとする。福島第1原発に到達する波の高さを5.7mとして原発を設計していたが、震災に伴う津波は3倍近い高さに到達していたことになる。第1原発の5、6号機は1~4号機の主要建物エリアに比べ、約3m高台にあり被害は少なかった。
 同日記者会見した同社の武藤栄副社長は「土木学会の評価に基づいて津波の高さを想定したが、結果として想定以上の津波が来た」<日本経済新聞4月10日>
 東電は5.7m想定の根拠を、土木学会の評価だと逃げているようだ。東電の彼らに基準「津波想定高」の責任はないのだろうか?

 15m近い津波は防波堤を越え、取水口近くの海水ポンプなどを飲み込んだ。その後、海面から10mの敷地を越えてタービン建屋を襲い完全に水没した。さらに海水は、山側にある原子炉建屋の方に回り込む。
 福島第1の海面から10mほどの高さにある13台の非常用ディーゼル発動機。大半は海側にあるタービン建屋、それも地下に置かれていた。敷地面より高い場所にあったのはわずか3台。14~15mの大津波で冠水し、敷地面から3mの高さにあった6号機の1台を除き、すべてが使用不能に陥った。ありえないとされてきた非常用電源の完全喪失事故である。
 福島第2発電所にも想定していた5.2mを上回る6.5~14mの津波が到達。ただ14mの波に襲われたのは敷地の主要外施設で、ほとんどの主要建物は高さ12mにあるため、水につからなかった。<読売新聞4月10日>
 福島第2も、あと少し高い海進に襲われていたら、第1と同様の惨事を招いていたのではなかろうか。

 東電は福島第1原発事故の直接的原因を「想定を超える津波」としている。津波が想定の5.7mを越え、14~15mに達したことで、緊急冷却システムを稼働させるディーゼル発動機が使えなくなり、すべての非常用電源を失った。電源車を送ったが「大半が水没して電源をつなぎ込む場所を制御するのに時間がかかった。ケーブルを引くのも大変だった」と、東電の武藤栄副社長は泥縄状態を語っている。<週刊「ダイヤモンド」4月16日号>
 しかしこの時、非常時電源確保のマニュアルがあり、それに沿った応急措置が取られていたならば、今回の大変な事態は防げたのでなかろうか。残念ながら、すべての電源が奪われる非常事態は、想定されていなかった。

 福島第1原発が大津波に襲われる可能性はこれまで度々、繰り返し指摘されていた。ところが東電の清水正孝社長は、「わが国が経験したことのない大規模地震に伴う津波といった自然の脅威によるものとはいえ、このような事態に至ってしまったことは痛恨の極み」。清水社長はあくまで、「想定外の天災」による事故との立場を崩さない。<読売新聞4月10日>
 原子力損害賠償法第3条には、原子炉の運転等の際に起きた事故・損害について、「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、(原子力事業者、すなわち電力会社の損害賠償責任は)この限りではない」。東電は、巨大な天変地異、想定外の津波であって、本来は損害賠償責任は免除されるという解釈をしようとしていたことは明らかである。
 日本経団連の米倉弘昌会長は、原賠法を詳細に調べたとして東電を擁護。同法が想定した「異常に巨大な天災地変」は「関東大震災の3倍規模」とした法律制定時の国会答弁を引き合いに、「今回は30倍だ」と説いて回っている。<共同通信4月14日> 米倉氏はこのように、東電を擁護している。
 東京電力社長の清水正孝氏は、枝野幸男官房長官の認識「原子力損害賠償法(原賠法)上の免責を認めない」という発表に対して、「承知していない」と記者会見で述べた。関係者は清水氏の発言について「今後、免責の適用につながる議論が出てくることに期待しているのではないか」と指摘している。<共同通信4月14日>
 参議院議員の加納時男氏、彼は東電の元副社長(原子力担当)だが、「想定外の地震と津波であり、東電も被害者です」<「週刊文春」4月14日>
 民主党参議院議員の藤原正司氏(電力総連出身)は自身のブログで「何兆円とも言われる損害賠償を一民間企業が負担出来るはずがない(中略)災害の原因を一民間企業に押しつけ何千年に一度といわれる地震と津波が今次最大の原因(犯人)であることを忘れてはいけない」。また民主党内に「東電は被害者だ。国が補償すべきだ」と、原子力損害賠償法(原賠法)の例外規定の発動を唱える勢力がある。<週刊「アエラ」4月18日号>。「何千年に一度」となると、弥生か縄文時代以来ということになる。根拠はどこにあるのでしょうか?
 それと、東電は被害者でしょうか? いいえ、東京電力は加害者です。今回の大惨事は、天災ではなく人災です。いや、東京電力という会社が起こした、社災です。

 福島県前知事の佐藤栄佐久氏はこう語っています。
 「今回の事故は人災だ。水に浸かるだけで非常用電源が動かないとは、原子力安全委員会は何をしていたのだろうか。どんなことがあっても安全だと、県民は信じ込まされていた」<「週刊ダイヤモンド」4月16日>
 
 平安時代に起きた貞観地震津波の痕跡を調査した研究者が、2009年に指摘していた。福島第1原発を、1000年以上も昔に襲ったのと同等の津波が来襲する危険性があると。
 しかし東電の回答は「十分な情報や根拠がない」。想定の引き上げに難色を示し、設計上は耐震性・津波耐性に余裕があると主張した。そして、津波と地震の想定は変更されなかったのである。

 東電のホームページでは、4月13日に下記の部分が削除された。
 「想定される最大級の津波を評価し、重要施設の安全性を確認しています」「敷地周辺で過去に発生した津波の記録を十分調査するとともに、地質学的に想定される最大級の津波を数値シュミレーションにより評価し、重要施設の安全性を確認しています」「発電所敷地の高さに余裕を持たせるなどの様々な安全対策を講じています」。
 海面より10m高を、またその位置で地階にあった非常用発動機を「余裕」としていたのです。おそらくディーゼル機は海面からおよそ6mほどの高さに据えられ、浸水で部屋ごと完全に水没したはずです。

 東京電力原子力部門のドンと呼ばれた元副社長の豊田正敏氏(87歳)は、次のように語っています。
 「今回の福島第1原発の事故は、頼みの綱の非常用ディーゼル発動機が津波で使用不能になってしまったことが引き金になっています。10m級の津波は想定外だったとしても、あの配置設計はまずかった。非常用ディーゼルや原子炉を冷却するポンプは、原子炉の安全のために必要なものですから(堅牢なつくりの)原子炉建屋に入ってさえいれば、被害はここまで広がらなかったと思う」
 原子炉建屋とタービン建屋では、そもそも建造物の強度が違う。強度の劣るタービン建屋(さらにその地階!)に非常用設備を置けば、リスクが高まるのは当然である。
 「もちろん原子炉の基本設計を固める際には、米国に飛んで向こうの専門家と打ち合わせもしていますし、非常用設備自体は、現場で試験をして安全評価もしています。ただ、原子炉の設計をしたGE社と東電の間には、米国のコンサルタント会社『エバスコ』が入り、我々はエバスコと契約しており、設計図などを受け取りました。そこから急いで作っていったのですが、その図面を誰もチェックしていなかったのです。エバスコの設計通りに作ったとはいえ、悔やまれてなりません」
 かなり前から東電は、福島第1原発の致命的な欠陥に気づいていたのである。<「週刊文春」4月21日号>

 コンサル会社のエバスコ。はじめて知った会社ですが、東電は40数年前、福島第1原発1号機をGEゼネラルエレクトリック社につくってもらったのではなく、エバスコに丸投げしていたのです。1号機が稼働を開始した40年前、日本の原子力技術のレベルは低く、図面をチェックすることもなく、コンサル会社にすべてをゆだねていたのです。おそらく東芝はその図面に忠実に、機器を製作したのでしょう。
 あまりにもお粗末です。さらには1号機をあと10年、延べ50年の運転延長をすることに決定していました。人間でいえば勤続40年。20歳ほどで社会人になったとして、還暦です。そして後10年の勤続疲労を強いられたまさにその時、大事故を起こしてしまった。おそるべき還暦「定年」です。

 今年の2月7日、原子力安全・保安院は、3月26日に運転40年を迎える福島第1原発1号機に、10年間の延長認可を与えたばかりだった。ここはきわめて重要である。経産省がどのような基準で認可を与えたのか、その認可は適正だったのか、厳正に調査されてしかるべきだ。また高経年化と原発の安全性に因果関係があるのか否かも、詳しく検証され、今後の原子力政策の進退を左右することになろう。<「週刊ダイヤモンド」4月16日号>

<2011年4月20日>
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