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「颶風の王」川﨑秋子

2017年09月28日 | 本(その他)
北の地、人と馬の末裔

颶風の王
河崎 秋子
KADOKAWA/角川書店


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馬も人も、生き続けている――。
東北と北海道を舞台に、
馬とかかわる数奇な運命を持つ家族の、
明治から平成まで6世代の歩みを描いた感動巨編。
酪農家でもある新人がおくる北の大地の物語。
三浦綾子文学賞受賞作。


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舞台は北海道。
馬と関わる数奇な運命をたどる家族の、
明治から平成まで6世代の歩みを描きます。
全体は3つの章に分かれていて、始めは明治時代。
東北から北海道へ渡ろうとする若き捨造の視点で語られます。
捨造の母は捨造を妊娠中、山中で雪崩に遭い
一頭の馬とともに雪洞に閉じ込められてしまうのです。
彼女は生き延びるために馬の肉を喰らい、一月ほど後に虫の息で救出されますが、
あまりの過酷な体験により心が壊れてしまっていました。
その後まもなく生まれた捨造は養子に出されて成長します。
18歳になった捨造は北海道開拓の夢をいだき、
一頭の馬とともに北海道へ渡る。


次は昭和、北海道の根室地方。
捨造はその後この地に根付き、馬を育てることをなりわいとしています。
この章は孫娘の和子の視点で描かれます。
父(捨造の長男)は戦死しており、そのため和子が祖父に教わりながら馬の世話をしているのです。
ところがある時、この農場をたたまなければならないできごとが起こります。
そこで一家は十勝へ移り住むことになりますが、
ほぼ一生を馬とともに過ごしてきた祖父はすっかり生気をなくしてしまう・・・。


そして平成、和子の孫娘にあたるひかりの視点で語られます。
祖母が少し認知気味で、しきりに馬のことを気にするようになるのです。
以前祖母が語っていた自分の家と馬との強い関わりを思い出したひかりは、
祖母のルーツである根室へ行ってみることに。


本作で語られるのは根室のほんの少し沖合にある「花島」という離れ小島。
昔ここに飼馬が十数頭置き去りにされたまま、救出できなくなってしまった。
そこで馬たちは厳しい自然に耐えながら自力で生きていくことを余儀なくされるのです。
しかし、そこで繁殖もし、なんとか命をつないで来たけれど、
今はたった一頭生き延びているのみ。
ひかりはこの馬を見る機会を得るわけです。
かつて自分の家とも大きく関わりのあった馬の末裔。
その馬との対峙シーンがステキです。

「鬣と尻尾とを激しく風に靡かせ、しかし体は微動だにしていない。
全身を覆う毛がつやつやとひかりながら揺れて、
まるで風に磨き上げられて馬体が美しく完成したように見えた。
四肢を堂々と地に突き刺し、暴風にさえ揺らぐことなく、
彼女は凛と立ち誇っていた。
人の手を離れて久しい血筋。
自力で生き継いだ獣が、どこまでも逞しく。」



感動ですねえ・・・。
美しく、力強い。
これぞ生きる力。
そして、馬が引き継いできた命も美しいけれど、
あの瀕死の女性から引き継いだ命が、今このように受け継がれ、
しっかりと生きているというのもまた十分に数奇なことではあるまいか・・・。
感慨が深まるのであります。


ちなみに「颶風(ぐふう)」は強烈に強い風のこと。
あの島を吹く風ですね。
この「花島」のモデルは根室南沖合の「ユルリ島」がモデルと思われます。
たまたまつい先日、新聞で紹介されていたのですが、
置き去りにされた馬の末裔は、メスが引き上げられて
オスが3頭だけ残っているとのことでした。

※川本三郎「物語の中に時代が見える」掲載本
図書館蔵書にて
「颶風の王」川﨑秋子 角川書店
満足度★★★★★


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