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「もののあはれ」ケン・リュウ

2017年06月16日 | 本(SF・ファンタジー)
日本人が書かない日本

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)
伊藤 彰剛,古沢 嘉通
早川書房


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巨大小惑星の地球への衝突が迫るなか、
人類は世代宇宙船に選抜された人々を乗せてはるか宇宙へ送り出した。
宇宙船が危機的状況に陥ったとき、
日本人乗組員の清水大翔は「万物は流転する」という父の教えを回想し、
ある決断をする。

ヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、
少年妖怪退治師と妖狐の少女の交流を描くスチームパンク妖怪譚「良い狩りを」など、
第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から8篇を収録した傑作集。


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「紙の動物園」と並ぶ、ケン・リュウの短編集。
もともと「紙の動物園」の単行本1冊だったものを、2巻に分けて文庫化したものです
。強いて言えば先に出た「紙の動物園」がファンタジイ篇、
この「もののあはれ」がSF篇という構成になっています。


さて、こちらの冒頭「もののあはれ」
主役はなんと日本人・ヒロトで、
地球滅亡寸前に人類の生き残りをかけた宇宙船に乗り込むことができます。
しかしその過程で各国で大きな混乱が起こる。
暴動、殺戮・・・。
でも、日本ではそうはならない・・・。
粛々と運命を受け入れるとでもいいましょうか、
少なくともヒロトの両親は、ヒロトのみを宇宙船に送り出して、
自らは地球と運命をともにしました。
そして今、この宇宙船にアクシデントが起こり、
回避のためには誰かが危険で困難な任務を果たさなければならい・・・。
消え行くものに美を見出す、
私達日本人の魂をたしかによくすくい上げています。
けれども、日本人はこんな物語は書かないでしょうね。
なぜならば、それはあまりにも私達の内側に当たり前にあるので、
わざわざ書くことではないからです。
だからこれはやはり、外から見た日本人。


「円弧」と「波」は不死について。
地球滅亡に伴う星間移住のストーリーと共に、SFでは大事なテーマですね。
でも不思議な気がします。
儚いもの、消え行くものに私たちは「もののあはれ」や美を感じます。
けれど「不死」、永遠に対しても同様に何か切ない悲しみを感じてしまう。
例えば同じく不老不死のバンパネラである「ポーの一族」を見ても
底に流れるのはひたひたと漂う寂寥感。
刹那も永遠も同じとは・・・。
通常の人には手の届かない「永遠」は、つまり想像の外。
私たちの人生の外にあるそれは、もはや「死」と等しいのかもしれません。

「もののあはれ」ケン・リュウ ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆


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