映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「蜘蛛女のキス」 マヌエル・プイグ 

2012年01月13日 | 本(その他)
そこに真の理解と愛はあったのか?

蜘蛛女のキス (集英社文庫)
野谷 文昭
集英社



                   * * * * * * * *

著者はアルゼンチンの作家で、通常なら私は滅多に手に取らない類いの本です。
少し前に、書評家豊崎由美さんのこの本の書評を新聞で拝見して興味を持ちました。
まさに、豊崎氏の応援が効を奏したということで。


それにしても風変わりな作品です。
登場人物はほとんど二人だけ。
ブエノスアイレスの刑務所。
監房で同室になった二人。
同性愛者のモリーナと革命家バレンティンです。
モリーナは未成年者の猥褻幇助罪で、
バレンティンは労働運動の煽動者として投獄されており、
全く異質な二人なのです。
退屈紛れに、モリーナが以前見た映画のストーリーを事細かに語っていきます。
この本はこの映画のストーリーについての会話がほとんどを占めていまして、
まあ、それだけでも面白いのですが・・・。
バレンティンが感想を挟むなどするうちに、次第に二人の心は接近していきます。


モリーナは並の女性よりもよほど甲斐甲斐しく体の弱ったバレンティンの世話をします。
実に、心打たれるほどに・・・。
しかし、なんと油断のならないことに、モリーナはある使命を持っていた・・・。
二人の関係は次第に濃密になっていき、
そして思いがけなくも切ない結末が・・・・。
しかし、二人の間に真の理解と愛があったのかどうか、
それは読み手にゆだねられています。


解説で三浦しをんさんが言っています。
この「わからなさ」、二人の真意が明確にされないことこそが、
人間の真実、言葉の無力と希望を、これ以上なく表現している、と。
「一瞬の光の連なりに過ぎない映画を見て、
映画館にいる観客が不思議な高揚と一体感を覚えることがあるように」
ほんの一瞬だけ、同じ影を見て心が重なった二人。
性別は関係なしにそれは美しく貴重な一瞬ですね。


さて、モリーナは実に細かく映画を覚えていますね。
私は自分の見た映画をこんなに事細かに人に伝える自信はありません。
ところで、彼女(彼?)の語った映画はすべて実在の映画なのでしょうか。
題名が語られないので、確かめようがありませんが・・・。
一番初めの「黒豹女」は、キャット・ピープルですね。
それは是非今度見てみよう・・・。


「蜘蛛女のキス」マヌエル・プイグ 集英社文庫
満足度★★★★☆


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