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「復活 上・下」トルストイ

2024年04月29日 | 本(その他)

人間精神の復活

 

 

 

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青年貴族ネフリュードフと薄幸の少女カチューシャの数奇な運命の中に
人間精神の復活を描き出し、当時の社会を痛烈に批判した大作。

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なぜ突然、よりによってトルストイなのか?

つまり私の受講している「絵本児童文学研究センター」の今年6月の講座で、
当ブログでも何度か紹介しているロシア文学者かつ翻訳家、奈倉有里さんをお招きし、
トルストイ「復活」についてのお話をされることになっているからなのであります。

正直私、ロシア文学については何も分らず、
トルストイの名前だけはもちろん知っていましたが、読んだこともありません。
ただ難しいのだろうと印象を持つばかりで、自分で勝手に敷居を高くしていました。
でも講義のためには、読んでおかなければなりません。
ということで意を決して読み始めたわけですが・・・。

いやいや、特別に難しいことなんかなくて、
実に興味深く楽しんで読んでしまいました。

 

本作が描かれたのは1899年
(実際には10年をかけて、長い中断もありながら書き上げられたようです)。
時期的にはロシア革命前夜。

主人公は青年貴族ネフリュードフ。
彼がとある裁判の陪審員を務めることになり、その裁判に赴いてみると、
被告は彼が若き日に遊び、そして捨てた娘、カチューシャだった!!

 

ネフリュードフはかつて、理想に燃えるまっすぐなすがすがしい青年だったのですが、
カチューシャのことも当時後ろめたく思いながら、とうに忘れ去っていました。
彼自身も戦争に行ってからはすっかり当初の理想もなくし、
世俗にまみれて暮らすようになっていたのです。

この裁判に於いて、窃盗と殺人の疑いをかけられたカチューシャは、
結局の所、単に巻き込まれただけという風に陪審員にもおよそ理解されたにも関わらず、
単なる行き違いで実刑を受けてしまいます。

ネフリュードフは、そもそもカチューシャがこのような娼婦にまで実を持ち崩したのは、
過去の自分の行動のせいだと思い詰めるようになります。

 

それから、ネフリュードフは何度も逡巡しながら、
自らの正義を見出していき、行動します。

いやはや、なにもそこまでしなくても・・・とこちらが思ってしまうほどに、
なんてイイ奴なんだ、ネフリュードフ!

 

拘留されているカチューシャに面会するために留置所を訪ねるネフリュードフは、
そこで苦しむ様々な人々を目にします。
中にはどうにもいわれのない理不尽な理由からここに収容されている人も。
そのような人々から依頼され、状況改善のため自ら関係者に話を付けに行ったりもします。
誰に対しても真摯。

そして後には、シベリアへ送られる人々に同行して長い旅に出るネフリュードフ。

そんな中で、自ら考えることなく、単に職務だからと同情心のかけらもなく行動する役人たちや資産家・・・。
彼はそうした社会の歪みを目の当たりにしていきます。

ネフリュードフが彼自身の「正義」を光として見出していく様が
力強く描かれていきます。
素晴らしい!

 

私が好きだったシーンは、ネフリュードフが彼の地元の農村を訪れるところ。
いかにも田舎というようなのどかな風景の中、出会う人々はみな個性豊かでありつつ朴訥。
光も風も、彼が通常暮らしている都会とは違っています。
しかし、人々はなんとも貧しい・・・。

 

ストーリー立てにしても、描写力にしても、さすがの文豪。
今まで読んでいなかったのが悔やまれます。
でも今さらにしても読めてよかった。

100年以上前の作品なのに、社会の中の問題は、今とほとんど変わらないというのにも驚きます。
だからこそ、今も世界中で読み継がれているのでしょう。

 

「復活 上・下」トルストイ 木村浩訳 新潮文庫

満足度★★★★★



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